ボーイズトーク12




松本さんとのデートはどうなったのか、聞きたかったが、入江はいつものポーカーフェイスで取り付くしまもない。
須藤さんが浮かれて話していたのは、相原とともに入江と松本さんのデートの後をつけて、その後二手に分かれてそれぞれ入江は相原と、松本さんは須藤さんと過ごしたらしいってこと。
いや、いろいろ突っ込みどころはあるんだが(特にデートの後をつけたってところとか)、結局入江のデートは相原にやきもち妬かせるためなのか。
なんだよ、相原とよろしくやってんじゃん、と仲間内では噂になった。
相原も須藤さんとこれ見よがしにくっついていたのは、入江にやきもちを妬かせるためだったのか。
お互い何をやってんだか。
しかも数日すると、別居したと聞いていた二人は、またもや同居することになったらしい。
という話は、食堂の金之助が憔悴していたので誰かが聞きだした話のようだ。
あの二人はやっぱり付き合ってるってことなのか?
それよりも、学内は近々行われる大学祭で活気づいていた。

「おい、見たか、ポスター」
学内に一晩でよくもまあこれだけと言えるくらいのポスターが貼ってあった。
「ああ。あれって、相原、だよな」
「…多分な」
それは、見る人が見ればモデルはテニス部の相原だとわかるくらいのアニメポスターだった。『ラケット戦士コトリン』というタイトルがつけられていた。
「オタク部って、アニメ部だっけ」
「そうそう、そうだった」
「何でオタク部の餌食に」
「ああ、相原がオタク部兼任らしいけど」
「モデルが相原の割に、胸がでかい」
「ぷっ、それ言っちゃダメだろ」
「オタク部の理想なんだから、胸くらいでかく修正したっていいだろ」
「それもそうか」
相原の胸は決して大きくない。これは大きな声では言えないが、テニス部で見る限り、ごく普通かやや小さい方だと思われる。いや、胸ばかり見ているわけでは決してないが、男なら胸の大小くらいは選別しているはずだ。
「それにしてもコトリンって」
「いかにもオタクが好きそうな」
そう言うと、誰もが思わずあちらこちらにずらりと貼ってあるポスターを見た。
須藤さんにまでやきもちを妬いたくらいの入江は、気にならないんだろうか。
それとも、二人はそういう仲ではないと?
「おい、聞いたか」
先ほど英語の講義に出ていたやつが、慌てて駆けてきた。
「何だよ、慌てて」
「いや、さっき英語始まる前に聞いたんだけどさ」
「さっきって言われても、俺たちあの英語の講義とってないし」
「まあそれはいいから。それでさ、相原のやつ、入江の前でバスタオル一枚でうろうろしてるらしい。ってことは、やっぱり付き合ってるのかな」
「バ、バスタオル一枚…」
「それで平気な入江は頭おかしいだろ」
「男としてどうだよ」
「いや、入江はムッツリっぽいからなぁ」
「ああ、それっぽい」
「というより、相原のバスタオル一枚じゃあなぁ」
「うん、まあ、胸は小さいけどな」
「小さくてもそんなシチュエーションにお目にかかりたいもんだよ」

「やあやあやあ、テニス部のおたくたちも『ラケット戦士コトリン』を見にきてくれるよね」
「う…おたく…じゃなかった、アニメ部」
「学祭で上映するの?」
「そうだよー、はい、これチケット」
「え?チケット?」
「一人千円ね」
「せ、千円?!」
「高い!」

「でも俺ちょっと楽しみになってきた。大学祭なんてちょっと面倒だと思ってたけどさ」
「俺も。彼女呼ぼうかな」
「な、なに?!おまえ、彼女できたのか!」
「ちょっとこの間の合コンでさ」
「やばい。このままだと大学祭も野郎だけで過ごすことになるぞ」
「合コンだ、合コン!誰かセッティングしてくれ!」
「ちょ、これ見に行くんだよな?」
「野郎とオタクと一緒に見に行くのかよ」
高いと言いつつ興味本位でついチケットを手にしてしまったテニス部部員数名。
果たして大学祭までに一緒に過ごす彼女は出来るのか。
彼女のできた一部員に無理矢理幹事をさせた合コンの成果には、誰もが無言だったという。

(2016/05/17)