ボーイズトーク14




もうすぐ後夜祭が始まろうとしていた。
あれほど頑張ったのに、誰一人として彼女をゲットできなかったのは、痛恨の極みだ。
「結局おいしい思いをしたのは」
「入江と相原だけだな」
「ちくしょー、俺だってクイズに出たかった」
「熱海だろ、行きたいか?」
「行きたいさ!」
「…誰と?」
「…う…彼女と」
「いねーだろ!」
「だいたい入江と出たら、クイズ王なんて楽勝だろ」
「そうは言っても、おまえが誘ってクイズ王に出るか?あの入江が!」
「ま、相原とだから」
「そう考えたら、相原すげーよなー」
いや、本当は入江母のお陰なのだが、そんなことは皆知らない。
「それより、観たか?」
「ああ?何を?」
「ラケット戦士コトリン」
「あー、チケット買わされたやつね。観たよ、だってもったいないじゃん」
「意外に面白かった」
「ああ、スドーザとかマツモトーレとかな!」
「他のやつらなんてショッ○ーと変わりない扱いじゃん」
「仕方がねーだろ、悪の下っ端なんだから」
「最後のオチが、美化したオタク部の連中って」
「ああ、あれはないわ〜〜〜」
「ないない」
そんな話をしているうちに、後夜祭のメインイベント、ミス斗南コンテストが始まった。
「そう言えば、誰に入れた?」
「松本さん」
「なるほど。俺ね、あの二番目の英文科の子」
「ああ、結構かわいい系の子ね」

『相原琴子さーん』

「おい、相原も呼ばれてるぞ」
「え?」

『相原琴子さーん、いませんか〜?あなたも候補ですよ〜』

「…ほんとだ」
「あ、もしかして、ほら、コトリン人気で」
「そっか、オタク人気で」
「うわー、意外だけど納得」
「今年は活躍するなー」
「高校の時からだろ」

『おー、やっと現れましたね、コトリン。さっ、こちらにどうぞ』

「あ、相原だ」
「あ、入江も来た」
振り返ると、確かに後ろには入江直樹がいた。
「二人で何してたんだろ」
「いや、さぼって須藤さんに片付け言われてただろ」
「あれ、でも松本さんと一緒のところ見たけどな」
「だって、松本さんもミス候補だろ」
「そういや、そうだな」

そうこうしているうちに、なんと今年のミス斗南は、あの相原に決まってしまった。

「うわー、本当に相原になったよ」
「あ、そう言えば」
「何だよ」
「ほら、ミス斗南が選ぶ…」
「王子様か!」
「お、王子様…」
「王子様の響き、やべーな」
「いや、俺遠慮する」
「誰も選ばねーよ」
「特に相原はな」
「そうだ、そうだ」

『ミス斗南は好きな男性を一人選んでもらいます。そして、選ばれた男性に断る権利はありません』

「考えたら怖い決まりだよな」
「彼女持ちだったりしたらどうなるんだよ」
「心配するな、相原が選ぶやつなんて決まってる」

『そりゃ入江直樹くんでーす』

「そりゃそうだよな」
「あ、入江が逃げるぞ」
「道ふさげ」
「捕まえろ」
俺たちの包囲網にたちまち入江は捕まった。
「嫌だ!離せ!」
「入江、仕方ねーよ、あきらめろ」
「出てやれよ、入江」
「そうだぞ、かわいそうだろ、相原が」
相原の名を出した途端に入江が叫んだ。
「知るか!」
「まあまあまあまあ」
「まあまあ、ほらオタクのアイドル、コトリンが待ってるからさ」

そう言って俺たちは、入江を囲んでステージまで連れていった。
四方を囲まれて、さすがの入江も逃げるに逃げられない。
途中からは抵抗もむなしくなったのか、嫌がりつつもちゃんとステージに上った。
その代わり、そのきれいな顔に不機嫌さを全開にして、何やら頭に王冠を乗せられ、マントを着させられて、にこにこうれしそうに笑う相原の隣に立っていた。
よく見れば、その額には大きなガーゼが当てられている。ちなみに相原もその頬に絆創膏だ。本当に何やってたんだ、あの二人は。

「副賞はハワイだってさ」
「ハワイか〜」
「熱海だけでもくれね―かなー」
「いいな〜」
「ああ、彼女ほしいなー」

壇上では『さあ、ではここで恒例のカップルでカラオケ、歌っていただきましょう!』と司会が言った途端、絶句した相原コトリンと王子様入江だったが、その衝撃から素早く回復した入江が王冠とマントを叩きつけるようにしてステージ上から脱走した。

『あ、入江くーん!待ってー!入江くんってばー!』

わざとなのか、入江は女の子たちの群れの中を突っ切るようにして会場を後にする。女の子たちはキャーという悲鳴を上げながら、入江を遠巻きにした。
お陰で入江はやすやすとその場を駆け出して、その素晴らしく長い足を生かして、あっという間にいなくなったのだった。

「すげーな。カラオケ全力で拒否だよ」
「入江がカラオケしてるところなんて想像もつかないだろ」
「あれで歌も上手かったら、女子は卒倒もんだな」
「うわー、今更ながら聞きたかったわ〜」
「いや、歌わねーだろ」
「どんな歌を歌うんだろうな」
「あれで演歌一筋とか」
「ぶっ、やめろよ。サブちゃん並に上手そうなところ想像しちゃっただろ」
「いや、あれでアイドルの歌かもしれないぜ」
「ちょ、聞きて―!」
「逆にものすっげー音痴だったりしたら」
「うわー、ありえねー」
「いや、俺の方が上手い!」
「嘘つけ、俺の方が上手い!」
「何だと!勝負だ」
「おう、カラオケ屋行くぜ!」
「あ、俺も行く!」

結局、俺たちは後夜祭の後をカラオケ屋で仲良く過ごした。ちなみに一緒に行った女の子は一人もいない。
おまけに、果たして入江の歌が上手いのかどうか、その場にいた俺たちの誰も知らなかったのだった。

(2016/06/15)