ボーイズトーク17




四月は勧誘の春だ。
我がテニス部は今年も勧誘で須藤さんが大張り切りだ。
入江人気に松本人気、ちょっと違う方面で相原コトリン人気。
「どうでもいいけど、コトリン人気あったって、オタクがテニス部入るわけじゃないし」
「まあそう言うなって。なんとなく人は群がってるところが気になって寄ってくるから、そこを勧誘してゲットだよ」
そうだ、かわいい女子をゲットしてぜひとも大学生活に潤いを!

そんなテニス部に入ってきた新入生の中に、これまた美人系の女子が入ってきたから、須藤さんは大喜びだ。
その名も松本綾子、あの松本さんの妹だった。
高校でもテニス部で、しかもインターハイで優勝している凄腕だった。あの松本さんさえもそこまでは成し遂げていないという。
しかも相原と綾子ちゃんは面識があるらしく、しかも入江とも知り合いだと。
「そして姉妹で入江の取り合いってか」
「どいつもこいつもみんな入江かよ」
「そりゃそうだろ」
「一人くらい回してくれよ」
「一人と言わず何人でもいいぞ」
テニス部はガチの部活だから、入ってくる女子も高校でテニスをやっていた気の強いタイプが多い。
むしろ相原のような初心者はサークル向きなのだ。
そこでゆるゆると楽しくやるのがいいんじゃないかと思う。
「なんで俺、このテニス部入ったんだっけ」
「高校でガチでテニスやっていたやつは入りがちだよな」
「俺、サークルのつもりだったのに、須藤さんが…」
「そう言えば俺も須藤さんに誘われたんだった」
「おまえもかよ」
その須藤さんは今も張り切って勧誘している。
女子は来るもの拒まずだ。
男子だって入ってくれるのなら経験は問わないとか言っちゃって、大嘘つきだ。
何故か須藤さんは男子テニスの経験者がわかるらしく、これぞという男子に声をかけている。詳しく聞くと実はテニス部に入っていたということも少なくない。
なんだろうあの嗅覚。
「ある意味恐ろしいぜ、須藤さん」
「いや、真に恐ろしいのはこれからだ」
「…あ、ああ」
須藤さんは相手に経験があろうとなかろうと、一旦テニスラケットを持ってコートに立てば、容赦ない鬼になるからな。むしろ下手な相手だとかなりいい気分になるせいか、手が付けられないくらいになるのだ。
それでぼろぼろになってやめたいって言うと、これまた優しいモードに変換してあの手この手で引き留めて、悪魔だよ、悪魔。

「今年も入江がやっつけてくれるといいな、あの悪魔」
昨年のいきなりやってきて須藤さんを叩きのめしたお試しゲームは見事だった。もちろん須藤さんをコテンパンにしたので、プライドはかなり傷ついて、その後の荒れっぷりも相当なものだったが。
「触らぬ神に祟りなしだからなぁ」
「いっそ松本さんが手なずけてくれないかな」
「いやある意味手なずけてるだろ」
「綾子ちゃん、須藤さんの扱い上手いな」
「ああ、ほんとだ」
そして、須藤さんは綾子ちゃんがやっつけた。女神だ。しかも女子で、松本さんの妹なので強気には出ない。
これ、後でまた荒れるんだろうかとちょっと心配になる。
綾子ちゃんが入江にちょっかいかけるせいか、松本さんが怒って姉妹対決となった。
「入江も別に松本さんと付き合ってるわけでもないんだけどな」
そんなこんなで始まった姉妹対決は、末恐ろしいくらいだった。
「なんかすげぇな、おい」
「あ、綾子ちゃんが勝った」
「松本さんが負けた」
「悔しそうだな〜」
「姉のプライドずたずたじゃないか」
「では、俺がなぐさめに…」
「いや、待て、松本さん、すごい勢いで怒ってるから近寄らない方が」
俺たちが止めるのも聞かずに一人果敢に松本さんに何やら慰めがてらのお誘いをしに行ったようだ。
「あ〜あ、行っちゃった」
「あ、速攻返り討ちに」
「バカだなー」
ところで俺たちはテニス部部員として大事なことを忘れてないか。
「かわいい女子に声かけるの忘れたー」
いや、そうじゃねぇだろ。
「春の大会、誰かエントリーされたか?」
俺たちは無言で顔を見合わせてそれとなくテニスラケットを振って、いかにもやっていますよアピールに努めた。
須藤さんに怒鳴られないように。すでに綾子ちゃんにやられたショックからはみるみるうちに立ち直っているからだ。
「…入る部活間違えた」
誰かのしみじみとした言葉に、俺たちは無言でうなずいたのだった。

(2019/03/13)