ボーイズトーク3




クリスマスは誰と過ごすのか。
一般男子の目下の興味はそこにあったが、A組の男子は模試の結果に頭を悩ませていた。
このまま内部進学する者もいるが、ほとんどは外部の学校も受けるのだ。
余裕綽綽といった風情の入江直樹を横目に、同じく悩んでいるはずの渡辺にまたもやA組男子たちは話しかけた。
ここで入江に話しかけないのは、もちろんそんなくだらない話に入江がのってくれるはずがないという確信があるからだ。

「で、入江の家では結局クリスマスパーティをやるんだって」
仕方ないなというふうに渡辺が答える。
「それはあの相原琴子も含まれてるんだよな」
「俺聞いたんだけど。あ、この話は入江には内緒な」
「どっちにしても誰もしゃべらねーよ」
「だから渡辺向け」
「はい?」
渡辺が思わず声を潜める。思わず背後の入江を気にした。
「F組の連中がテストのお礼を兼ねて、終業式の日に入江の家に押しかけるらしいぞ」
「はあ、それはまた」
入江が嫌がりそうな、と渡辺は口に出しそうになって慌てて口元を押さえた。
「いいなあ、女子と一緒のクリスマス」
「おまえも誘えばいいだろ」
「A組の女子をか?」
「…すまん、無理だな」
しばしの沈黙。
渡辺は「うん、僕は聞かなかったことにするよ」と言ってその場を去った。
渡辺が行ってしまうと、その場にはそれ以上話題がなくなった。
「…勉強するか」


二学期の終業式を目の前にして、渡辺は入江をちらちらと気にするそぶりを見せた。
「何かあるのか」
そう言われると、渡辺は笑って答えた。
「何かあるかと言われれば、あるかもしれない。でも僕は秘密にするって約束したから」
「俺に言えないことならそういう素振りを見せるなよ。知らないふりをしておけよ」
「…そうするよ」
渡辺の含んだような言葉には気になったが、入江はあえて深く突っ込まなかった。
渡辺も渡辺で「たまにはサプライズもいいんじゃないかな」と一人小さくつぶやいた。
「ところで相原さんは結局同居しっぱなしだね」
「…いい迷惑だ」
「でも楽しそうだけど。楽しいハプニング多そうじゃない?」
「何か期待してるならあれ以上のことは何もない」
「あれ以上って、夜這いとかおんぶとか以上の…?」
「…渡辺」
「ああ、それはちょっとした迷惑だったっけ。ごめんごめん」
でも、と渡辺は隣にいる入江を見た。
結構楽しそうだけどね、と思ったがもちろん声には出さなかった。


クリスマスが過ぎ、冬休み中に予備校に通う途中で渡辺は入江に会った。
「おまえ、知ってたな」
「何が?」
渡辺はもちろん知っていたがとぼけておいた。当然終業式前のやり取りを入江が覚えているだろうから、うっすら苦笑いだ。
「クリスマスは大変だった」
「で、何もらった?」
「…どうでもいい」
微妙な表情をした入江を見ながら、渡辺は首を傾げた。
どうしても教えてもらえなかったF組一同からのプレゼントは、何を隠そうF組から後日知れ渡った。
どんな顔して相原琴子人形…とA組男子が思ったのも無理はない。
おまけに相原からもらったプレゼントが高周波治療器。
最近よく首を回していて疲れていそうなので(それがプレゼントを贈ったやつからの被害だったりするが)、高校生男子にふさわしいとは言えないが、あの入江なのでありとしよう。
どちらにしても他のA組男子が家族以外の女子にプレゼントをもらう機会などとんとなかったからだ。
自分だったらいらないが、もらえるものなら文句を言いつつもらってしまうかもしれないとA組男子は思ったのだ。
渡辺はA組男子が知らない事実を一つ知っていた。
何だかんだと相原は入江の身体を心配してあの高周波治療器を選んだのだ。あれで結構お小遣いで買うには高いので、自ら牛丼屋でバイトをしてまで。いや、あのバイトは似合っていたし妙に馴染んでもいたが。
でもまさか、すぐに捨てられるだろうと思っていたプレゼント(主に人形のほう)は、その後何年たっても破棄されることがなかった事実は、さすがに誰にも知られることはなかった。
机の奥深くの渡辺も知らない秘密、だったりする。

(2015/06/03)