電子ペット編



その3


近頃電子ペットもお年頃になったようだ。
もう既に隠しアイテムも隠しイベントもいろいろこなして、もう適当に済ませてしまおうと思った。

「あ、入江さん、僕の電子ペットはどうですか?どうです、賢そうでしょう。残念なことに真里奈さんのもオスなんですよね…。
おや、入江さんのはメスなんですね。どうです、僕のこの賢いペットと結婚させるというのは…」

どうでもいいと思っていた電子ペットだったが、船津の持っている電子ペットと結婚させるなどと聞いた途端、急に簡単に嫁になど出せるかと思い始めた。
少なくとも船津はダメだ。
たかが電子ペット。
そう思っていたが、仮にも密かにつけた名前はコトコだ。
船津なんかとくっつけるさせにはいかない。
とっさに船津の電子ペットをつかんで放る。

「あっ、ああ〜〜〜!入江さん、何するんですか!」

船津は放られた電子ペットを追って駆けていった。
さらに他のヤツがやってきた。

「お、入江。入江のペットもお年頃じゃん。俺のと…」

無言で机の上に置いていた自分の電子ペットを取り上げる。
無理矢理通信しようとしたヤツのは、同じように放り投げてやった。
だいたい皆同じような時期に育て始めたので、どいつもこいつも電子ペットはお年頃らしい。
そんなことを繰り返している間に、妙な噂が立っていた。


「入江く〜〜〜ん」

看護科から琴子が息を切らして駆けてきた。

「ねぇ、入江くんのペットの名前、あたしだって、ホント?」

…いったい誰が気づいたんだ。

誰にも名前など言った覚えはないはずだった。
平静を装ったまま、琴子を見下ろす。

「もしそうなら…」
「そうなら?」
「ちょっとうれしいかも。だって、ずっと入江くんがお世話してくれてるペットだもんね。あたしもそんな風に大事にしてもらいたいな…なんて」

俺は頬を染めて廊下で照れる琴子を目の前にして、電子ペットよりもやはり生身だと思った。

「…世話はともかく、大事にしてるつもりだけど?」
「…え、そう?」

少し不満げな琴子ににやりと笑って電子ペットを見せる。
琴子との電子ペットとの相性は大親友だ。

「え、いつのまに?すご〜〜い」

先ほどの不満も忘れて、俺の電子ペットに見入る。
電子ペットよりも単純なのに、計算のできない行動をするレアな女は、多分おまえだけだと思うぜ?


(2008/12/31)