おまけ:初詣編
それはにぎやかに騒いだ後の静けさ。
「ね、あたしたちも初詣に行こうよ」
「どうせ朝におふくろたちと一緒に行くんだろ。面倒だからいいよ」
「えー、でも、裕樹君たちも行っちゃったし、皆も行ってるのに」
「また裕樹たちの後でもつけるわけ?」
「そんなんじゃないもん」
「ふーん、なんでそんなに初詣に行きたいわけ?」
「えー、だってね、神社の隣にあるおでん屋台ではんぺんを食べるといいことがあるんだって」
「…いいこと?」
「そう、いいこと」
「その根拠は?」
「だって、モトちゃんにそう聞いたんだもん」
「なんなんだよ、その根拠は」
「でもいいことあったらうれしいじゃない」
「結局、初詣とは全く関係ないんじゃないか?」
「そ、それはそうだけど」
「じゃあ、行くか」
「え、ホント?」
そして二人は初詣へ。
近所の神社なのでさほど混んでいないが、お賽銭箱の前へ行くにはちょっと時間がかかる。
「ええい、ここから投げちゃえ〜」
「…人に当たってもしらねぇぞ」
「いたっっ!!」
「あ、当たっちゃった…。どうしよう」
「ほら見ろ」
焦る琴子に呆れ顔の直樹。
「誰だよ、乱暴だな」
「「…あ!」」
同時にあげた声。
「…こーとーこー!!」
「ゆ、裕樹君…、ごめ…」
「琴子先生」
初詣に先に訪れていた裕樹と好美であった。
「どうせ入らないんだから、そんなところから賽銭なんか投げるなよ」
「失礼ね、入るわよ」
「ほー、じゃあ、これは何だよ」
琴子に賽銭をぶつけられて赤くなった額を見せて言う。
「そんなに怒らなくてもいいじゃない。ほら、年始から縁起がいいわよ、きっと」
「おまえの賽銭じゃ、年始からきっと最悪だよ!」
「もう、仕方ないわね〜。いいことのあるおでんおごってあげるから」
「仕方ないって、おまえがぶつけたんだろー」
「ゆ、裕樹君、おでん食べよ。あたしも聞いたことあるよ、幸せを呼ぶおでんの話」
「…ふーん。じゃあ、おごってもらうからな」
「なによぉ、好美ちゃんだと素直に聞くのね〜」
「うるさいっ」
そして一行はおでん屋台へ。
すでにおでん屋台は長い行列。
その列の少し前に並ぶ人影に見慣れた顔、顔、顔。
「ア、琴子デスヤン。ミンナ来テルデスネ。ココノオデンノウワサヲ聞キヨリマシテン」
「おー、琴子…と、なんやむかつく顔のそっくり兄弟け」
「モチロン、金之助ノオデンガ一番ネ。デモ、幸セヨブイウカラ来テミタデス」
金之助とクリスの声を聞きつけたのか、さらにその前の方の列に並ぶ二人。
「あら、琴子、やっぱり来たの…って、きゃー、入江さん」
「こちらに並びませんか?」
桔梗と真里奈の二人だった。
「え、遠慮しとく」
間にずらっと並ぶ人たちの冷たい視線を押しのけて、横入りする勇気はさすがにない。
というわけで、並ぶこと30分。
ようやく琴子たちの番に。
「あたしもはんぺん」
勢いよく幸運をつかめるというはんぺんを頼んだ琴子だったが、おでん屋台の主人に浮かぶ汗。
「あれ、あれ、はんぺんが…」
「えー、ないの?」
「う、うん、ごめんね。餅巾着ならつかめたけど…」
「じゃあ、あたし餅巾着でもいい。だって、餅巾着好きだし」
「あいよ、餅巾着ね」
「入江くん、おいしいね」
「オデンハ金之助ノホウガウマイデスヤン」
そこで密かに交わされる会話。
「そういえば、琴子ってなんだかんだ言って幸運よね」
「そうよね」
「決めたわ、あたしも餅巾着食べる」
「え、な、なんで。幸運だけど、トラブルも…」
「だって、入江さんみたいな人に巡り会えるかもしれないじゃない!!」
「………」
「おにいさ〜ん、あたしも餅巾着くださる?」
「あ、あたしも」
「ずるいわよ、真里奈」
「モトちゃんこそ幸せ独り占めにするつもり?」
「じゃあ、あたしも」
「あたしも餅巾着!」
「餅巾着ください」
…かくして、幸運のはんぺんから幸運の餅巾着に変わったことなど、本人たちは全く知ることもなく過ぎていくのでありました。
(2007/01/04)