そこは斗南、巨大キャンパス。
斗南の平和は彼らによって保たれている。
「きゃあぁぁ!」
悪の組織ダイジャーが現れた!
「何て言うんでしょうかねぇ、私のワインを一緒に飲みたい人リストにちょっと協力してくださればいいんですよ」
「そんなの自分で誘えばいいでしょ」
「彼はなかなか忙しい人で…」
一人の女性がダイジャー幹部モリンに捕らわれている!
「あ、また出たわ、ダイジャーよ!入江くん、さあ、変身を」
「面倒くせーな」
「そんなこと言わずに、さあ!
ホスピタ〜ピンク!」
超やる気なさげな声が響いた。
「…ホスピタレッド」
「他のレンジャーはどこへ行ったのよっ」
「いっそ必要ないだろ」
「だって、五人揃わないとホスピタレンジャーじゃないじゃない」
「…心配しなくても、呼ばなくても来るだろ」
更に超投げやりなレッド。
「ムムッ、現れたな、ホスピタレッド!
ああ、いつ見ても何て麗しいんだ。その美しい深紅の情熱で私を包んでくれ」
「ああー、モリンの奴、いつ聞いても気持ち悪い〜」
「全くいつにもまして邪魔ですね、ピンクは」
「何が邪魔よ、あんたのほうこそいつもいつもしつこいのよ!」
「おおっと、美しい女性を守るのは、この僕の役目だ。
ホスピタブルー、参上」
「ああ、真理奈さん、今すぐお助けいたします!
ホスピタイエロー参上です」
「…何でいつもあんたは捕まるのよ。
ホスピタブラック」
ちなみに断っておくが、どう見てもピンクより女度が上なブラックだが、ホスピタレンジャーのピンクが紅一点である。
「斗南の平和を守るため、斗南戦隊ホスピタレンジャー参上!」
お決まりのポーズはあるが、張り切ってポーズをするのはピンクただ一人だけである。
「人質を放しなさい、モリン」
「ピンクごときに呼び捨てされる謂れはありませんねぇ」
「ほんっとにいつも細かいんだから」
ピンクとモリンが言い争っている間に、ホスピタイエローがヒョロヒョロパンチを繰り出した。…が、あっさりモリンにかわされる。
続いてホスピタブルーが…。
ホスピタブルーは通りすがりの女性に声をかけていた。
ホスピタブラックは、自分の衣装が気に入らないと今日も文句を言っている。
時計を見たホスピタレッドは、すたすたと歩き去ろうとしている。
「ちょ、ちょっと、そのやる気のなさはなんなのよっ」
ピンクは叫ぶが、聞いているのはモリンただ一人である。
いや、そのモリンも…。
「レ、レッド、待ちたまえ!
私と夜明けのワインなぞいかがかね?差しあたって明日の朝なんかが空いているのだが」
「…お断りします」
「…なっ!仕方がない、この手は使いたくなかったんだが」
そう言ってモリンは人質を放し、ピンクの首元をつかんだ。
「きゃあ!何するのよ!」
歩き去ろうとしていたレッドはピクリと反応した。
「た、助けて、レッド〜〜〜〜!」
一つため息をつき、レッドは振り向きざまにキラリとひかる何かを投げつけた。
モリンの立っていた横の木にびぃぃんと突き刺さる何か。
思わずモリンはピンクから手を離した。
ピンクはそのままレッドに駆け寄る。
モリンが恐る恐る顔を動かすと、顔の横、ほんの数センチのところに光るメスが突き刺さっていた。
「くっ、相変わらずいい腕ですね…」
そしてどこからか鳴るメロディ。
『愛の賛歌』だ。
「きょ、今日はこれで」
そう言うが早いか、マントを翻してモリンは立ち去った。
「俺も時間だ。行くぞ」
「は〜い」
レッドとピンクは二人で仲良く立ち去った。
いつの間にかブルーもいない。
イエローはその場に昏倒している。
ブラックは早々に変身を解いていた。
* * *
「も、もしもし」
『大蛇森先生、608号室の患者さんが…』
「わ、わかりましたよ。今行きます」
衣装を脱いだ彼の目の前を、すでに変身も解いた白衣姿もまぶしい麗しの君が歩いていく。
もちろんその隣には、金魚のフンのようにまとわりつく女の姿も。
「今度は逃しませんよ」
そっと心に誓うダイジャー・モリンだった。
* * *
「っていうか、あたし、いつも何のために人質になるの?」
そばに転がっているイエローを見下ろしながらつぶやく真里奈だった。
いけいけホスピタレンジャー、
(2009/11/30)
2009/12/13初出