斗南戦隊ホスピタレンジャー10




緑の衣装の彼ら、いや、彼は荒い息の中混乱していた。
ピンクレンジャーの父、ひいてはレッドレンジャーの義父を襲ったはずなのに、何故か得体の知れないお面ライダーが出てきた。
名乗った者によれば、お面ライダーゴールド、だと言う。
なんだそれは、と彼は混乱したのだ。
まさかレンジャー以外に敵が出てくるなど思いもしなかった彼である。
もう一度おさらいだとばかりに状況を整理してみる。
そう言えば、最近の戦隊ものの傾向には、途中でライダーと競演するものがあるということを思い出した。
それもその一環かと思い至った。
映画にしても戦隊対ライダーなんて客を煽ったものもある。
それにしても悪役というのは何故か共闘することが少ない。
それぞれの思惑があるし、お互いを信じていないのだからそれも仕方がないかもしれないと彼は分析する。
そう、悪役は共闘しても結局は自分たちがイニシアチブをとりたがる。
なので共闘とはいえ、結構勝手なものである。
彼はライダーの悪役に思いを馳せた。
確かにわらわらと下っ端が出てくるのも一緒だが、ライダーのそれは容赦がない。
…と彼は勝手にライダーの下っ端に同情する。
そもそもライダーは出てきたが、ライダーの敵はどこにいるのだろうと彼は考えた。
日本の中心S県H湖に基地を構えているとか言う(…マジです。『仮面ライダー1号』参照)。
本当に中心かどうかは疑わしい限りだが、ライダーの悪役がそう信じているのだから、そういうことにしておこう。

「ふう」

彼はため息をついて緑の下っ端衣装を脱ぐと、ダイジャー本部研究室へと戻った。
彼はしがない研究員であったが、頭は悪くない。
腐っても医学部にストレートで合格した身だし、もちろん国家試験も一発で合格している。
それに加えて容姿も悪くない。
ダイジャーの下っ端は、何故か緑の衣装で見えないにもかかわらず、容姿のいい者という条件がついているからだ。

「どうですか、進んでいますか」

この研究室の主であるモリン様大蛇森先生がこう言えば、それは研究内容のことではなく、いかにしてレッドを拉致できるかという計画が進んでいるかという意味である。
いや、一応普通の研究もしている人間もいるから、この質問は彼限定であるかもしれないが。

「申し訳ありません、お面ライダーゴールドという者に邪魔をされました」
「…ライダー、ですと?」

何事か思い出すことがあるのか、それを聞いた大蛇森は唸ったままどこかへ立ち去っていった。
もしかして、お面ライダーと戦ったことがあるのか。
はたまたお面ライダーの敵と共闘する気なのか。
彼にはわからなかったが、とりあえずレッド拉致監禁計画を練り直さなければならないのは確実だった。
拉致監禁するなら…できればピンクのほうをと言いたいところだが、どうやらモリン様とピンクは相性が悪いらしく、ピンクの名を出しただけで機嫌が悪くなるのだから仕方がない。
彼は「レッド拉致監禁計画」、サブタイトル「夜明けのワインを私と」を見直すことにしたのだった。

(2012/10/29)

初出:2012/10/29