斗南戦隊ホスピタレンジャー13




目の前の女はつやつやの唇をこちらに向けながらなおも言い募る。
一応ダイジャー下っ端その1が人質にしたいつもの彼女だった。

「前から思っていたんだけど、イケメン捕獲の噂って、こういうことだったのかしら」

そう言って女はやけに嬉しそうだ。

「ダイジャー部隊って、イケメン揃いなの?」

それには答えず「いいからホスピタレンジャーを早く呼べ」と急かす。このままでは昼休みが終わってしまう。

「今度大蛇森の研究室のぞいてみようかしら」
「いいから、早く」
「もう、ちゃんと来たら今度素顔を見せてもらうから」
「(見せるわけないだろっ)」

ダイジャー衣装のマスクの下でもごもごと反論しながらホスピタレンジャーを待つ。

「真理奈さ〜〜〜〜〜ん」

遠くから叫んでやってきたのは、イエローだった。

イ、イエロー?

イエローは引退したはずでは。
下っ端その1が首を傾げているうちにようやくイエローが到着した。
本人は必至のようだが、到着はなかなかにして遅い。

…遅い。

その場にいた三人の顔にそう書かれる頃、よたよたしながらイエローはやっとのことで人質の前に到着した。

「なぁんだ、ふ…じゃなかった、イエローか」

下っ端その1とその2もまさにそのセリフを言いたかった。
何故イエローなのかと。

「いえ、レッドもブルーも取り込み中(注訳:手術中)で抜けられません」
「せめてブラックとグリーンは?」
「昼休憩がずれているとのことですが」
「…聞く必要ないけど、一応聞いておくわ。ピンクは?」
「下っ端その1には近づくなとレッドからきつく言い含められているとかで」
「…それは、仕方がないわね…」

以前ピンクを拉致しようとして失敗した過去(斗南戦隊シリーズ6参照)を持つ下っ端としては覚えがありすぎてマスクの下で冷や汗が流れる。
ピンクに関わった後、額から流れ出た出血の原因は不明。
「次は命ねえから」との地獄からの声。
それらの出来事が走馬灯のようによみがえった。
下っ端その1が思わずぶるぶると震えるのを見たその2は、「いったいどういうことなんです」とささやいた。

「い、いや、レッドは…一番恐ろしい奴で…その、ピンクとは何か関係があるらしいのだが」
「つまり、恋仲であるので、ピンクに手を出したら想像以上に痛いしっぺ返しが来たと」
「そうとも言う」
「それでは、このイエローはどういう位置関係で?」
「…見たところ、イエローの一人相撲といったところだと」

「そこ!なんですと!勝手なこと言わないでください」

下っ端二人の言葉を聞きとがめたのか、イエローがびしっとこういうときだけ指摘してくる。

「とりあえずイエローは倒しておきましょう」
そう言うと、下っ端その2はイエローに向かって何事かをささやいた。

「…二番、二番とうるさいんだよっ」

突如としてイエローが叫んだ。
いったい何を言ったのか、なんとなく想像はつく。
イエローの資料によると、学生時代からレッドには絶対に勝てないコンプレックスがあるという。そこを突いてやると自爆するとの報告だった。
ところが、予想に反してイエローは怪獣のように唸ったかと思うと、戦隊ものにありがちなピンチになると強さ十倍(当戦隊比)な巨大ロボのように変化した。

「うお〜〜〜〜〜〜〜!」

これにはさすがの下っ端その2も予想外だったらしい。目を点にしている。
下っ端その1は密かに感動していた。
まさか巨大ロボ出現までこぎつけるとは…!
いや、正確には巨大ロボが出てきたわけでも巨大ロボに変身したわけでもないのだが、まるで巨大ロボのように(ここ重要)ホスピタレンジャーが進化するとは思わなかったのだ。

「われわれも巨大化の研究をせねば…!」

下っ端その1はいてもたってもいられず、人質も巨大化イエローもそのままに、ダイジャー本部へと戻っていくのだった。
残された下っ端その2は茫然としながらも下っ端その1の後を追い、人質は呆れて首を振っている。

「今に見て色!」

注意しておくが、誤植ではない。俺、うまいこと言った感のあるイエローのせいだ。

「俺だってやればできるんだー!」

ダジャレのことではないだろうが、初めて一人でダイジャー下っ端を追い払ったことに対しての叫びと思われる。もしくは二番と揶揄されたことに関してか。
もしかしたら、イエロー引退は撤回された、かもしれない。

(2014/08/02)

初出:2014/08/02