斗南戦隊ホスピタレンジャー15




ダイジャー本部にとあるものが設置された。

「ああ、何て眩しくて、何て神々しいんだ」

ダイジャー幹部、モリン様は新たに設置した像に向かってすがりつかんばかりだ。
ダイジャー本部だから、本当に敬うべきは悪の総幹部ではないのだろうか。
そんな疑問を持ちながらも、モリン様が敬うものを決してないがしろにはできない下っ端だ。
下っ端はいつ切り捨てられても文句は言えない。
もちろん文句くらいは言ってもいいかもしれないが、それがダイジャーにとっていいか悪いかと言えば、そんな議論をするまでもなく無視、だろう。
なので主な下っ端をのぞき、ほとんどの下っ端は顔ぶれが入れ替わる。
そりゃもう激しく入れ替わるので、下っ端その1を自負する者ですら把握できていない。
最近になって下っ端その2を同じく自負する者が現れたくらいで、もともと下っ端に人格も権利もない。
あるのは義務だけだ。
必要最低限の仕事をこなさなければ容赦なく切り捨てられる。
切り捨てられてしまったら、赤点だろうとなんだろうと泣きを見ることになる。
なので、多くの下っ端と称される輩は、下っ端衣装を着ている限りはモリン様に口応えもしなければ、アドバイスもしないし、ましてやよそに口外もしない。
契約に全部入っているので、口外した折には医師になることすら不可能かもしれないと言われている。
何せ現実問題としてモリン様の仮の姿である脳外科は必修なのだから。
公私混同ではないかって?
ダイジャー幹部モリン様に公私などと言うものはないのだ。
だから、ダイジャー本部にこれが設置されようと多分問題ない。
それは、何故かホスピタレンジャーのリーダー(多分)であるところのホスピタレッド似の釈迦如来像だった。
似ているかと言われれば、かろじて似ているとしか答えられない。
ダイジャーの下っ端その1がいつも顔を合わせるときはほとんどレッドの姿なのだから仕方がない。
それでもちらりとリアルの姿を見た感想としては、滅茶苦茶顔はいい。傍らには妻である(後で知った)ピンクを伴う姿は、リア充そのものだ。
人に言わせれば顔はいいのにと言われる下っ端その1だったが、オタクのあまり彼女はいない。
いや、下っ端その1の名誉のために言うと、交際は申し込まれるが、何せ忙しい院生の身。おまけに戦隊ものにしか興味のないオタクだ。
そして、ダイジャー下っ端としての役割もあって、なかなかに忙しく、いつも彼女の要求に応えきれずに破局する。
そもそも下っ端その1が好きで付き合ったわけでもないから、あっさりしたものである。
そんな日々を過ごしているうちにすっかりリア充とは無縁の生活になってしまった。
いや、今はレッド似の釈迦如来像の話だった。
その釈迦如来像は、モリン様が一目ぼれで買った代物で、散々安置場所に悩んだ挙句、一日のほとんどを過ごすことになる研究室ダイジャー本部に安置したようだった。
日々磨く手にも力がこもる。そこをいけないと戒めながらモリン様は丁寧に扱う。
そりゃもうそれが恋人のごとく手つきがそこはかとなくいやらしい感じがする。おっと、ここは削除。
拝んで眺め、一人でニヤニヤしながら一日過ごす。
もちろん下っ端が触れることはかなわない。
大きさは赤子くらいだろうか。
抱っこすればちょうどいいくらいの大きさだ。
購入して安置してからさまざまな人がその釈迦如来像を見たいと押しかけた。
下っ端の役目はその見たいと押しかける人々のさばきだ。
時にはその中に教授も混じっている。
仕方がないので釈迦如来像をぱっと見わからないように安置場所を偽装する工夫もなされた。
モリン様が許可すれば別だが、いない時を狙ってくる輩もいる。
たとえそれが教授と言えども見せない、というのがモリン様の方針ならば、それに従うのが研究員兼下っ端の役目なのだ。
何だかんだと理由をつけて教授の来襲をかわすのが日課になった。
そのうち諦めるだろう。そうなる日まで、下っ端の苦労は続く。
しかし教授もなかなかにしつこい。このしつこさがなければ教授になどなれないものかもしれない。
そういうわけで今日も下っ端は教授の攻撃をかわすことになった。

「大蛇森君はいないのかね」
「ええ(もちろんいないのを狙ってきたんですよね)」
「そうか、残念だな。今日は釈迦如来像の御機嫌はどうかな」
「(機嫌もくそもあるか)いつも通りです」
「見せてくれた者には、外科学の点数を…」
「残念です。私はすでに院生の身なので」
「(ちっ)そうか、大蛇森君は何も言っていなかったかね」
「申し訳ありません。私は何も」
「おっと、(ころころ)私の大事な万年筆が転がってしまった」
「(投げ入れてんじゃねーよ)ああ、それは大変ですね(棒読み)」
「いやいや、大事なものだから自分で拾うことにするよ」
「そんなに大事なものなんですか。壊れていては大変です」
「いや、大丈夫、自分で落としたのだからね。おっと、おっとっと」
既に後方では釈迦如来像隠匿シフトは完了している。
少しくらい中に入られても問題はない。
「足がよろけて…」
「(シフト体制強化第二弾だ!)大丈夫ですか、教授!」
そう言って、わざとらしくより奥に入ろうとした教授の身体をがしっと受け止めて押し返す。
もちろん後方ではシフト第二弾に移っており、釈迦如来像は奥深くに安置されるよう移動している。
「(く、くそっ、失敗か)いや、すまないね」
「いえ。足腰は大事ですね(このもうろくじじいが)」
「いや、申し訳ない。このお詫びはまた大蛇森君に直接するよ(そのついでにまた頼むとするか)」
「いつものようにお気遣いなくと申しましょうが、お伝えしておきます」
撃退成功!

こんなやり取りが何度か繰り広げられているのだから、どれだけ斗南大病院は暇なんだと研究員たちが首を傾げるのも無理はない今日この頃だった。

(2015/01/12)


初出:2015/01/16