斗南戦隊ホスピタレンジャー



16


戦隊ものにはつきものの巨大ロボットが欲しい。
そう思い始めたのは、日曜朝のことだ。
いつもの通り特撮番組を研究しつつ、今後のことに思いを馳せる。
もちろん録画しておいたものを後でもう一度見直すことも当然のことだ。
敵はホスピタレンジャー。
そこに斗南戦隊、と頭書きがつくが、かくいうダイジャー部隊も斗南であることを考えれば、その頭書きはいただけない。
ダイジャーの目的は、ホスピタレンジャーを退け、斗南の制覇にあるのだから。
そのためにも、まだホスピタレンジャーも手に入れていない巨大ロボットの開発と所持が必要なんじゃないかと気づいた。
そこは研究職。
どうすれば巨大ロボットを製造できるのか。

「あのー、巨大ロボットについてお聞きしたいんですが」
『はい。では当社のおもちゃ製造事業部、戦隊部門に電話を回します。少々お待ちくださいませ』
あれこれ考えた挙句、あの巨大ロボを製造したパンダイに電話をしてみたのだった。
パンダイは寛大だ。突然の電話にもかかわらず、門前払いをすることもなかった。
『お電話変わりました、おもちゃ製造事業部、戦隊部門の黒田です』
「あの、突然で申し訳ありません。こちらは斗南大学病院、脳神経外科教室、大蛇森ゼミの山本(仮)と申します」
もちろんそうやすやすと名前を名乗るわけはない。
と言いつつ、ゼミ名までは本当だ。少し本当のことを混ぜれば嘘もそれらしくなる。
『はい、山本さま』
「実は御社で作った巨大ロボットについてお聞きしたいのですが」
『はい、巨大ロボットというと、あれですね』
「はい、あれです。実は、当ゼミでもあれくらいの巨大ロボットを研究することになりまして、オリジナルでぜひ一台用意できたら、と考えております」
『はあ、オリジナルで』
「ええ、もちろん突然のプロジェクトでこんな話をされても迷惑でしょうが、脳神経外科的な観点から、ああいうロボでも脳神経とつなぐ回路次第では動かせることができるようになるのではないかという研究をですね…」
『何と、素晴らしい!確かに今は介護ロボットも介護される側の意思によって動かす試みがなされているのですが、それの応用と考えても良さそうですね。実はそういう試みが一度ならず何度か提案はされているのですが、それを支えてくださる研究室がなくてですね、全部立ち消えになっているのです。しかも!この私、ロボット操作のプレゼンを行ったわけでありまして!いやー何とも奇遇です!』
今考えたもっともらしい理由を口から出るままにしていたら、なんとそのような研究がすでに検討されていたとは。
事実は小説より奇なり。
もしもこのプロジェクトが本格的に動き出して、予算までもらえて、実際に研究をすることができるなら、いろいろな未来が見えてくる。
もちろんそれを隠れ蓑にしたダイジャー部隊の未来も明るいだろう。
「そうですか。まだこちらも予算が決まっていないので何とも言えませんが、今後、研究者として脳神経からいかに自在にロボットを操縦できるかという観点で研究を進めていきたいと考えています」
『はいはい』
「操縦桿、というか、まるでゲームのようにコントローラーを握るのも悪くありませんが、それでは体の不自由な方々にとっては使えないにも等しいことです。直接脳で考えて命令を下すだけで動くロボットを作りたいのです」
『一度、詳しいお話を伺えませんでしょうか』
「そうですね。御社に伺ってもよろしければ」
『はい、では明日の午後三時ごろでいかがでしょうか』
「はい、そうですね…」
ここでスケジュール表を開く。
おお、ちょうどモリン様の用事もオタク活動もオフの日だ。
「こちらは依存ありません。明日の午後三時にお伺いいたします」
『はい。ではお名前をフルネームでもう一度お伺いしても?』
「…山本(仮)太一(仮)です」
おっと、あぶねーあぶね―。うっかり本名を名乗るところだった。
『では斗南大学病院脳外科学教室の山本太一さま、お待ちしております』
「…はい」

電話を切ってから、速攻でパソコンに向かう。
山本(仮)太一(仮)の名刺を作らなくては!
レジュメを作らなくては!
山本(仮)太一(仮)は、その研究室で鍛えられた能力をもって、全身全霊をかけてレジュメの作成を急いだ。
途中何やら勘の働いた下っ端その2に何をやっているのかとしつこく追及されたが、これはかわし切った。
そんなことに構っている場合ではないのだ。
いよいよ巨大ロボット計画への一歩だ!
…断っておくが、ゼミ生のほとんどは、ごくごくまともな研究のために在籍している。
たとえそこにいるのがイケメンばかりで、ある目的のために脅されていたとしても、だ。
斗南を征服するぞ!我がダイジャー部隊に栄光あれ!

(2016/06/25)


初出:2016/06/28