斗南戦隊ホスピタレンジャー



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その所業はある投書を通じて知ることになった。

『外科のドクターNは、いつも複数の女性とお付き合いしているようです。』

すっかり忘れていたが、ダイジャー幹部のモリン様は、斗南大学における安全なんたら委員会の委員を務めている。
そこに久々に不穏な投書があったのだという。
それが先にあげた投書の内容なのだが、このドクターNとやらが誰を指すのか、まずはそこからかと思いきや、モリン様はあっさり言った。
「そんなの、あのエロメガネドクターNですよ」
モリン様は一度受けた仕打ちを決して忘れはしない。
ドクターNはちょっとばかりモリン様の好みとは外れるが、かつてあの超絶イケメンと噂らしいドクターIが現れるまではちょっとばかり目をかけていたのだ。
そのドクターNは、あろうことかモリン様をひきつった顔で拒絶した。いや、はっきりきっぱり言ったわけではないが、何せ根っからの女たらしであり、男は想定外の代物として何か別の宇宙人を見るような目で見返したのだという。差別には敏感なモリン様は、衝撃を受けたのだという。
正直言えば、ドクターNの周りとて、何も嗜好が違う人間は何人かいる。身近な例で言えばホスピタブラックもその類だ。
しかし、ホスピタピンクほどではないが、どうもモリン様はドクターNとの相性も悪かったらしい。
以後、ブラックは、可愛さ余って憎さ百倍というわけだ。
そして、外科のドクターNで女たらしと言えば、ホスピタブラックしかいないのだという。
そんなに簡単に決めつけていいものかと思った下っ端だったが、モリン様の命令には従わなければならない。
他の下っ端は少し乗り気だ。
「そんな女の敵のようなドクターは、懲らしめてやるべきだ」
「そうだそうだ」
うらやましさもあって、にわかに盛り上がった。
その盛り上がりのまま、嫌がらせが始まった。
まずはコンピュータシステムに詳しいらしい下っ端が、システム侵入を試みる(注:犯罪です)。
しかし、そんなに病院システムセキュリティは甘いものではない。
そこで、まずは簡単に地味に調査を繰り返し、なんとドクターNのIDとパスワードを探り出した。
そこで、別の下っ端がドクターNがIDを使用した場合のトラップを仕掛けることにした。
どうやってやるかは作者も知らないので聞かないように。
あれこれあって、最初のドクターNのみシステムダウンはうまくいったが、他のアイデアは結局どれも途中で断念するという体たらくだったので、ロボット開発に忙しい中、下っ端1と下っ端2が乗り出すことになった。アイデアは他の下っ端のを生かすことにした。
正直言えば、下っ端1と下っ端2は別格だ。
そりゃもう犯罪なんだか合法なんだかわからないことをあれこれ知っていて、オタクのたしなみとして(本当か?)パソコンもそれなりにいじることができる。
つまり、ドクターNは二人の策略により、脅しがかけられた。

『婦女子に対する狼藉許し難し。
 制裁を受けるがよい。           ダイジャー

一応誰からの制裁かがわかるように下に小さく署名も入れておいた。
あのサラ金から借りるときに書いてあるような小さな署名だ。うっかりすると見落とすような。
伝わればそれでいい。
案の定、ドクターNは慌てふためいてシステム管理室に再び連絡する羽目になった。
ははは、ざまあみろとトラップが上手くいったことを喜んだ下っ端たちだったが、それで終わりとは決してならなかった。
さすがドクターN。伊達に女たらしの称号をもらっているわけではないらしい。
そもそもイケメン集団とまで言われている大蛇森ゼミだというのに、ゼミに参加している間中彼女との交流は一切禁止なのだ。いや、そもそも大蛇森ゼミに参加した時点でたいていの下っ端は振られる。
これを大蛇森の呪いとまで言われている。
そんなこんなで恨みつらみがドクターNに向かった。
あれほど脅したにもかかわらず、ドクターNは合コンに参加すると言うではないか。

許せない!

全員一致の意見により、制裁を実行することになった。
緑の下っ端衣装に身を包み、二人でドクターNを医局のあるトイレで待ち伏せした。

「あっ、うわっ、ちょっと」

いくつかの会話をした後、合コンにも行けないようにドクターNを捕獲拘束の上、そのままトイレに放置した。
助けを呼べるように口をふさがなかったのはせめてもの情けだ。
ダイジャー部隊はその報告を聞いて、ダイジャー本部でささやかな乾杯をしたらしい。

(2016/09/27)


初出:2016/09/28