斗南戦隊ホスピタレンジャー



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あれこれ実験を繰り返し、夢の巨大ロボット製作に向けて邁進していたダイジャー下っ端その1と下っ端その2だが、突然現実問題にぶち当たった。
いや、本当はいずれそれが問題になるだろうという予測はしていたのだが、見て見ぬふりをしていたのだ。
それはパンダイ本社にての打ち合わせの時だった。

「まずは製作したロボットをどこに置くかという問題が」
「それはパンダイが所有する工場跡地でいけるでしょう」
「現在お台場には例のあれが置いてありますが」
「あれは組み立てるのに約一か月程度ですかね」
「斗南大での実験結果ですと、これにさらに調整を加え…」
「いや、待て。デザインはどうする」
「それはやはり外装はデザイン部にだね」
「実は私、御社の寡黙戦隊サイレンジャーの大ファンなんです。それをもとに、なんてダメでしょうか」
「マスコミには…」
「斗南大学にも」

様々な観点から意見が出された。
そして、それは唐突にやってきた。

「いよいよ夢が現実になるんですね」
「そのことなんですが…巨大ロボの制作組み立てに約七億円です」
「…七…億…」
「七億です」
「それはちょっと…」
「いっそ分割にしますか」
「分割…」
「七千万ずつ」
「七千万…!」

七億とはどうやって資金確保をすべきか。
下っ端その1と下っ端その2は悩んだ。

「どうする、七億」
「七億と言えば、確か宝くじの一等前後賞がそれくらいか」
「いや、待て、宝くじがいかに大金を獲得できるとしても、だ、当たる確率がどれくらいか知ってるか」
「えーと、確か一千万分の一」
「一千万ということは、宝くじを一千枚買ってようやく当たるということだ」
「当たる奴は一枚でも当たるだろ」
「その自信があるんですか」
「…ない」
「冷静に考えてください。一千枚の宝くじを買うと三十億円。一等前後賞が当たっても」
「…赤字か」
「そのうち何枚かが当たるとしても、割に合いません。それよりも現実的に考えて借金踏み倒しの方がはるかにマシです」
「借金踏み倒し…悪の響きだ」
「どうですか」
「そうだな。分割にすると見せかけて踏み倒すか」


「七億払ったとして、どうやって操縦したら」
「そのままでは動きませんよ」
「え?」
「動力は別です」
「べ、別…」
「そうです。七億円です」
「またか!」
「それから、その七億を払ったとして、オプションが必要でしょう」
「オ、オプション」
これまた車を買うときの状況に近くなってきたぞ、と下っ端の二人は思った。
そう、車本体とは別に、何やらバイザーだの泥除けだのナビだのETC車載器だのをあれこれとつけ、果てはついているはずの自動ドアすらも最低限のシリーズを買うとオプションになっていたりして、税金も含めると気が付くととんでもない金額になっていたりする、あれだ。
「水中で動く場合はどうします」
「水中…。でも防水機能はついているんじゃ。だって、お台場のあれだって外にありますよね」
「そりゃもちろん表面塗装くらいはしてありますが、あれは動かないので」
「では、そのオプションとやらは…」
「七億円です」
「やっぱり?!」
「どうします」
「ちょっと考えさせてください」


どういうことだ。
当初の予定とは大きく違う。
巨大ロボットはそんなにも金がかかるのか。(当たり前)
斗南大学におけるゼミで申請した実験費用はせいぜい頑張ってもうん百万だ。
国からの補助を受けてノーベル賞も間近かという研究をして、何とかうん千万単位。
どこに億単位の金があるというのだ。
二十一億もあったら実は斗南大学ですら買えるんじゃないか?(多分無理)


「ここまで計二十一億。払ったとしたら?」
「そうですね。免許は持っていますか」
「め、免許?車なら」
「それ普通車ですよね。せめて大型車なんかは持っていませんか」
「それはちょっと…。でも必要なら取ります」
「総重量三トン以上になりますので」
「と、取りますから!」
「そうですか。それから、維持費が必要です」
「まさか、それも」
「ええ。保管費用にメンテナンス費用。こちらは少しおまけして」
ごくりとのどが鳴った。
「五億円になります」
「…五億…」
「毎年かかります」
「毎年!」
下っ端その1の気が遠くなった。
そんなに金があれば、斗南なんてけち臭いこと言わずにそれこそ世界征服も夢じゃないんじゃないか。
下っ端その1を支えつつ、二人は斗南への道のりを帰っていたのだった。

 * * *

「諦めましたか」
「ええ。ちょっとかわいそうですが」
「資金もないのに協力を要請してくるのが間違いなんですよ」
「手厳しいですね、社長代理」
「もう社長代理ではありませんよ」
「ああ、これは失礼しました、あの頃のくせでつい」
「またあの二人から連絡がありましたら、こちらにもご連絡ください」
「承知しました」
そう言って開発担当者のデスクから颯爽と帰っていったのは、かつてこのパンダイで社長代理を務め、今は斗南大学病院でも誉れ高い社長御子息の姿だった。

(2016/10/09)

初出:2016/10/09