悪の組織ダイジャーのモリンは
ひとつため息をついて最近の傾向について思い返していた。
人質をとってみてもレッドにはさほど関心がないようだった。
人質の人数を増やすというのはどうだろうか。
いや、それよりもどんどんレッドの出現回数が減っていることこそが問題なのではないだろうか。
いやいや、それよりもあのピンクが邪魔をするのが何よりもいけない。
しかしピンクがいないとそもそもレンジャーは現れない。
なんと腹立たしいことだろう。
「どう思う、諸君」
わけのわからない意見を求められて、
「あの、それは、ピンクが邪魔でピンクがいないと困るなら、いっそピンクを人質に…」
答えた学生は今でこそ白衣を着ているが、呼ばれれば緑の下っ端衣装で駆けつけなければいけない。つまりそういう立場の者だ。
レッドだのピンクだのとその意味すらもわかっていない学生は、きょとんとして成り行きを見守っていた。
「モリン様!」
必要もないのに下っ端衣装を着込んだ者が一人、モリンの前に進み出た。
学生その1ではあるが、研究室に残っているものの一人であり、自他共に認める特撮ファンだったりなんかする。
「その役目、私が承りましょう」
気分はノリノリである。
「そうですねぇ、もしもうまくいったなら、ダイジャー幹部にとりたててもいいですよ」
「本当でございますか、モリン様。では、必ずやモリン様のお気に召すようにいたしましょう」
二人の会話を聞いていた関係のない学生は、ただのお遊びだと思っていた。
しかし、密かなる下っ端たちは、その会話を聞きながらそれぞれ冷や汗をかいていた。
おいおいおい、そこまでノリノリになってどうする。
いや、だからこそ研究室に残ったんだろうか、先輩は。
ていうか、自分から役目をかって出る幹部候補というのはたいてい失敗しておしおきをくらうんだよな。
でも、もしも先輩がダイジャー幹部になったら、この研究室はいったいどうなるんだろう。
えーと、もしかして協力しておいたほうが後々有利なんだろうか。
いや、でも失敗したら…。
「な、なんだか妙な雰囲気が…」
「俺、やっぱりここのゼミやめようかな」
一般学生はこうしてわけもわからず研究室を去っていくという。
研究室の入り口にダイジャー本部と看板のかかる日も近い…かもしれない。
(2010/08/27)
2010.08.30初出