斗南戦隊ホスピタレンジャー6




昼休憩に入った頃だった。
彼は再び爆発装置を裏手に設置して機会をうかがっていた。
誰かに見咎められぬように緑の下っ端衣装もスタンバイだ。
そう、彼は悪の組織ダイジャーの幹部候補(予定)であり、下っ端その1と呼ばれる立場の男であった。(参考:前作『斗南戦隊ホスピタレンジャー5』)
彼の素顔はイケメンであるが、戦隊好きが高じて彼女はいなかった。
今まで心惹かれる女子は戦隊の女隊員という見事にオタクの道を辿っていた。
そんな彼だったが、とある日に見かけた看護師のことが忘れられなくなっていた。
なんと言うことはない出会いだったが、何か強烈に惹かれるものがあったのだ。
その何かが彼には良くわからなかったが、とりあえずもう一度会えればラッキーくらいの気持ちだった。
…今日までは。

彼は爆発装置を作動させ、再び待ちぼうけを食らったり警備の人間に不審人物として追いかけられる羽目になったりはしないかという不安を抱えながらも木陰でホスピタレンジャーが現れるのを待っていた。
すると、そこへ彼女が現れた。

「何、あれ」

煙が上がるのを見て好奇心を抑えられなかったようだ。
現れた彼女は言うまでもなく彼がもう一度会いたいと思っていた看護師だった。
伴う相手はどうやら男のようだが、これまた対照的に綺麗の一言に尽きる容姿をしていた。

「何かの爆発?」

そういうと彼女は何かを察したようにこそこそと渡り廊下から抜け出して、物陰に隠れた。
次に物陰から出てくると、彼女だと思われる姿はピンクレンジャーに変身していたのだった。
なんという偶然。
なんというめぐり合わせ。
彼は前回以上に逸る胸を押さえながら成り行きを見守った。
気がつくと、彼女の傍にはブラックレンジャーまでいた。
彼はしどろもどろになりながらピンク(とブラック)の前に飛び出し、口上をきった。

「ふははははは、待ちかねたぞ、ピンク」

マスクの下で顔が紅潮するのを感じた。
きっと彼が心惹かれたのは、彼女がピンクだったからに違いない。

「何で下っ端がしゃべってんの。普通こういう時はモリンじゃないの」

ブラックが面倒そうに言った。
オカマ言葉だった。
そうか、そうだったのか、と新たなる戦隊バージョンに開眼した思いだった。

「モリンさまは何かと忙しいのだ」
「あー、そうでしょうね」

ブラックはすぐに納得した。

「他の下っ端は?」

ピンクはきょろきょろと周りを見渡した。

「私は幹部になる男なのだ」
「へーそうなんだ」
「あら、幹部はモリン一人じゃないの?」

ブラックは燃え尽きたダンボールをつまみながら聞いた。

「モリン様は総幹部で…って、そんな説明をしている暇はない」
「総幹部ってことは、悪の大ボスじゃないってことよね。それなら大ボスは誰なのかしら」

ブラックの言葉に乗せられて危うく貴重な昼休憩の時間を終えてしまうわけにはいかないと、彼はすばやくピンクの背後に回った。
ピンクの首に腕を回すとピンクの体を拘束する。

「ピンクを助けたくば、レッドに来るように言うがいい」

そう言って彼はピンクを引きずっていこうとした。
このままピンクを連れ去るとはなんともおいしい。できればピンク撮影会でもして保存しておきたいところだ、などと彼はひそかに考えていた。
イケメンだがもてないわけはこういうところかもしれない。
ところがピンクは予想外の行動を起こした。

「レッドー!レッドー、たーすーけーてー!」

その存在を知られると厄介なことになるホスピタレンジャーともあろう人間が、大声を出してレッドに助けを請うとは思っていなかったのだ。
もちろんそれでレッドが必ず助けに来るとは限らないのだが、このときばかりは何かを察したのか、レッドはちょうどピンクの叫び声が聞こえる位置にいたのだった。

「お、おい黙れ」

口をふさごうとした彼の額に音を立てて何かがぶつかった。
ごつっと明らかにそれ痛いだろというような音を立てて何かがぶつかった瞬間、彼はマスクの下で白目をむいて気絶する羽目になった。
昏倒する意識の下で聞いたのは、ピンクのうれしそうな声。

「レッドー!助けに来てくれたのね」

レッドとピンクがくっつくパターンかよぉと彼は少しばかりがっかりしながら意識を失った。

 * * *

「ったく、迷惑も顧みず叫ぶな」
「だって、入江くん、あたしのヒーロ−だもん」

レッドは足下で気を失っているダイジャー下っ端を見下ろすと、転がった石を腹立たしげに蹴った。
レッドの衣装の下でその目は『今度こういう目に合わせたら、殺す!』と物語っていたが、ピンクは気付かなかった。
もちろん下っ端その1も気付かなかった。気付かなくて正解かもしれない。
ブラックだけが殺気を感じてブルルと震えて目をそらした。
目をそらしたそこには、緑のマスクの下からじんわりとにじんだ血のような染みが見え、更に寒気を感じて腕をさすった。
まさか死んではいないわよね、と思っていると、微かにマスクが呼吸で上下するのを見て安堵のため息をついた。
正確無比に飛んできた石は、殺さない程度に下っ端にぶち当たったらしい。
ブラックは、ピンクのためなら手段を選ばないレッドの仕打ちを想像して、今回一緒にいながらピンクをこういう目に合わせる羽目になった自分の身をそれからしばらく案じることになるのだった。

(2010/10/01)
2011.02.12初出