「最近斗南生のイケメンが拉致されてるって噂よ」
今日も斗南は平和かと思われたが、なにやら物騒な話が出てきた。
「じゃあ、入江くん、危険だわっ」
そう叫ぶと、彼女は物陰に隠れて変身した。
「ホスピタ〜ピンク!」
そう、彼女は
あえて突っ込むとすれば、彼女の夫は既に斗南大学を卒業したので、いくらイケメンであろうと対象外だと思われるが、このピンクは少々早とちりなのだ。
ところが幸運にも目の前で一人のイケメンが拉致された。
安易ではあるが枠は30分しかないので仕方がない。いや、細かいことは気にしないでくれたまえ。
「もう、仕方がないわねぇ。
ホスピタ〜ブラック」
そう言って続けて変身した彼は、先ほどのピンクよりも仕草も女らしいが、れっきとした男である。時間もないので深くは追求してはいけない。
* * *
「や、やめてくれ、助けてくれ」
「助けてほしくば、ダイジャーとして一年間従うのだ」
「…ダ、ダイジャー?」
「そう、悪の秘密結社だ。ダイジャー幹部モリン様の下でこの衣装に身を包み、お仕えすれば…」
「すれば…?」
「もれなく脳外科学の単位がもらえる」
「の、脳外科学の…。
ハッ、まさか、あの噂は本当だったのか!なにやら怪しげな宗教に入らされるという…」
「宗教じゃないっ!」
「じゃあ、なんだよ」
「だから、悪の秘密結社だ」
「…いったい何をするところなんだ?」
「…そ、それは…」
「それは?」
「斗南を支配するつもりだ…多分」
「………斗南を…」
「い、いや、いずれは世界を狙っている」
「…どっちでもいいけど、その衣装は嫌だな」
「何を言う!これはイケメンしか着られない下っ端衣装だぞ、文句を言うな」
「こんなの着たらイケメンかどうかわからないだろ」
「……いや、わかるんだ、モリン様には…」
「…モリン様…ス、スネイクモリンか…」
「頼むよ、後釜を確保しないと卒業できないんだよ」
そのとき、後ろから爽やかにも熱い声が。
「リハビリキーーーーック!」
そんな声とともに、会話をしていた二人の背中にキックが炸裂した。
いや、拉致された人にも当たってるし、とブラックは思ったがとりあえず口にはしなかった。
「ホスピタグリーンか」
とある下っ端は振り向きつつ背中の攻撃に昏倒した。
「俺は拉致されたほう…」
拉致された学生はそんな言葉を残し、悶絶した。
「ふう、危ないところだった。大丈夫か、君!」
自分でキックしておいてそれはないだろうと思いつつも、ブラックとピンクはグリーンの後に続いて学生を助け起こした。
「何でイケメンばかり狙われてるのかしら」
「それは絶対モリンの趣味ね。きっとハーレムでも作るつもりなのよ!
そして、そこに入江くんまでも…ああ、最低、モリンのやつ」
「趣味?」
ピンクの言葉が理解できないらしいグリーンは、それでも学生が狙われていることはわかった。
「とにかく捕らわれたイケメンを探さねば」
グリーンの言葉に一応うなずいたピンクとブラックだったが、そこで謎の言葉が…。
「探しても無駄だ…。
捕らわれたものたちは…」
昏倒したはずの下っ端だった。
「おい、捕らわれたものたちはどうしたんだ!」
グリーンが助け起こしたが、下っ端は気を失った。
そこへ現れたのは新たなる下っ端十人あまりだった。
下っ端たちはものも言わずにせっせと気を失った下っ端と助け出されたはずの学生を運び出した。
何を思ったのか、ついでにグリーンまでも運ばれている。
「あ、おい、ちょっと待て。俺は…は、離せ。いや、離してくれ。
俺は…俺はダイジャーじゃない、グリーンだ」
多人数に抵抗できず、グリーンも下っ端に混じってどこかへ運ばれていってしまった。
後に残されたピンクとブラックは呆然とその光景を眺めていた。
「…グ、グリーンが」
「下っ端と同じ色着てるから、間違われたのかしらね」
「で、でも、いいのかしら」
「それとも、イケメンレーダーに引っかかったとか。あれでいてグリーンは顔は悪くないんだから」
「ど、どうしよう」
おろおろするピンク。
「放っておけ」
そこに冷たい声が響いた。
「あ、レッド。用事(訳:病棟の呼び出し)は終わったのね」
「えーと、それでは、助けには…」
遠慮がちにブラックが尋ねた。
「グリーンなら何とかするだろ。それにダイジャーの本拠地に潜入するいい機会じゃないか」
レッドのマスクの中で(恐らく)笑いながらそう答えた。
「あ…やっぱり」
ブラックはそう答えながらグリーンの無事をただ祈るばかりだった。
レッドがグリーンに冷たいわけは、自分の身の安全のため追求してはいけない。
* * *
「お、おい、なんや、おまえらは」
とある路地でとある青年が異様な軍団に囲まれた。
「おれをさらってどないするんやーーーー」
また一人青年がさらわれたが、その事実はいまだホスピタレンジャーの知るところではない。
…イケメンかどうかは微妙だが。
なにやらきな臭い計画があるようだが、次回へ続く。
(2012/05/18)
2012/05/28初出