お面ライダーゴールド
前回(斗南戦隊ホスピタレンジャー8参照)お面ライダーに改造されてしまった男がいた。普段はふぐ料理の店で働く気のいい青年である。
「ほな行ってきます」
東京に住んでいるが関西弁の彼は、料理人を目指して既に8年が過ぎていた。
味覚と腕は確かな料理人になりつつあり、彼はこの日初めて大将と呼ばれる店の主とともに仕入れに市場に行くことになった。
車の運転も彼が行い、順調に仕入れを終えたが、そこへいきなり緑の服の集団が立ちはだかった。
「な、なんや!」
このままではせっかく仕入れたふぐがダメになってしまう。
彼は意を決して車の外へ出て、大将に向かってうなずくと、一人腰のベルトを出現させた。
どうやって出現させるかは深く考えてはいけない。
持ち主の求めに応じて出たり消えたりするものなのだ。
「おめ〜ん…ライダー、とぉ〜〜〜〜」
彼は若干ブサイクなお面ライダーに変身した。
車の中でそれを見守っていた大将は度肝を抜かれた。
「…あ、あいつは、お面ライダーだったのか!」
何故大将がお面ライダーを知っていたのか、深く追求してはならない。
後に彼は重大な協力者となるのだから。
「お、おまえは何者だ!」
下っ端その1が叫んだ。
この下っ端群の中で唯一話をしてもよいとされているのは、自称幹部候補下っ端その1だけだった。
「わしか?わしはな、お面ライダーゴールドだ!
この世に悪は栄えない。悪人はこのわしが料理してやるで〜」
どこかで聞いたようなセリフだが、間違ってもこれは『○ッターマン』ではない。
そこそこネーミングに苦労してるところだけは評価してやってほしい。
「う…予想外だ」
この車を狙って襲ったのも実は理由があるのだが、それは今ここでは伏せておこう。悪人の言い訳だからだ。
「ひ、ひけ、ひけ〜〜」
戦う前に緑の集団はわらわらと退いていった。
「…なんや、ちとつまらんのう」
つい本音を漏らしたところで、彼は変身を解いた。
うっかり大将の前で変身してしまったが、大将は口外しないと約束をした。
それよりも彼らには大事な使命が残っていた。
「はよふぐを店に持ち帰らな」
そう、彼らはふぐ料理店の板前だったのだ。
車は再び走り出した。
以後、たびたび緑の集団が現れることになるのだが、このときの彼らには知る由もない。
(2012/10/02)
初出:2012/10/02