選択1 moonlight
よ〜しっ!今年はとっても素敵なお誕生日にして、入江くんをびっくりさせるんだから!!
そのためには準備が必要よね。
場所はおしゃれなレストラン、服装もうんと可愛くしてびっくりさせなきゃ!
あとは・・・・・・・・・・・プレゼント・・・?
・・・・・・・・入江くんの欲しい物って・・・・・・何だろう?
***
「男の人って何が欲しいのかなぁ・・・・・・・・。」
「はぁ?」
息も白くなってきた今日この頃。
あたし、桔梗幹と琴子は二人で買い物に出かけていた。
「何よ、突然に。」
「・・・・・・・・・・来週の日曜日、入江くんの誕生日でしょ?」
ああ、なるほどね。
「あんた・・・・・プレゼント決まってないんでしょ。」
「うっ・・・・・・・だ、だって・・・・・だって・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
まぁ悩むのも無理はないわね。
入江さんに手が入らないものなんてあるのかしら?
「で、ここは男のモトちゃんに・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・今、何て?」
「あっ、いや・・・・・・・男の人の心理がわかるモトちゃんに・・・・・・。」
琴子がにっこりと笑い・・・・
「何かいい案出してもらおうかなぁ・・・・・と思って。」
そして「お願いっ!」と手を合わせてきた。
いっつもいっつも・・・・この子ときたら。
あんたに頼みごとされると皆断れないのよ。
・・・・・でも、今回はさすがのあたしもお手上げ。
「いつも一緒にいるあんたがわかんなくて、あたしに判るわけないでしょ?」
「そ、そうだけど・・・・・・・。入江くんの欲しい物なんてわかんないんだもん!」
「・・・・あたしもよ。入江さんの欲しい物だなんて・・・・・・・・・・・・・。」
・・・・・・いや、一つだけ。
一つだけあるじゃない。
「・・・・・・・モトちゃん?」
しばらくぼぅっとしてたから、琴子が覗き込んできた。
「・・・・・・・・・・・・・・琴子。」
あたしはニヤッと笑って琴子に言った。
「あたしに・・・・・・・・・いい案があるわ。」
***
「じゃあ琴子ちゃん、お兄ちゃんによろしくね〜!」
「はいいっ!」
11月12日。
店を予約するのはやめたあたしは早速今晩のディナーの支度に取り掛かった。
入江くんはお仕事だけど夕方には帰ってくる。
お義母さんとお義父さんと裕樹くんはお友達の家のホームパーティにお呼ばれ。
お父さんはふぐ吉で新しい料理の研究。
・・・・・・・つまり皆、気をつかってくれたのだ。
(みんなの為にも入江くんをうんと驚かせなきゃ!)
気合の入ったあたしは、まずはテーブルを綺麗に整える。
モトちゃんに指定されたように真ん中に造花を置いて、キャンドルをセットして・・・・完成。
『いーい?この造花をテーブルの真ん中にでも置いときなさい。』
『わぁ・・・・・・可愛い!これなんて花?』
『ん?・・・・・・・・それは秘密よ。』
「なんの花なんだろう・・・・・・・。」
菜の花?じゃないよね。当たり前に。
あたしはつん、と愛らしい黄色い花びらをつついた。
***
次はお料理。
さっ、急いで作らなきゃ・・・・・・・・・
エプロンをつけたその瞬間だった。
プルルルルルル・・・・・プルルルルル・・・・・・・・
電話が鳴った。
この時間帯・・・・・・・・・・もしかしてもしかして。
――――――とても、とても嫌な予感がした。
あたしは『どうか入江くんじゃありませんように』と神様に祈りながら受話器を取った。
「・・・・・・・はい、入江です。」
「あ、俺だけど。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
やっぱり、入江くん・・・・・・・・。
「・・・・・・・・どうしたの?」
次にくる言葉をわかってるのに聞いちゃうあたし。。
「今日帰るの遅くなるから。」
・・・・・・・・・・わかってたけど、聞くと・・・・・つらい。
「・・・・・・・・・・・・・晩御飯は?」
「いらない。」
「・・・・・・そう、わかった。」
カチャン
あたしは受話器をそっと置くとソファにもたれ込んだ。
そして息を吸い込み・・・・・・・隣の家にまでは聞こえないように大声で叫んだ。
「なんで自分の誕生日に仕事いれちゃうのよー!」
なんで?なんで??
あたしなんか有給使ったのに。
確かに入江くんは誕生日とか気にしないかもだけど〜〜〜〜〜〜
でも!せめて晩御飯ぐらいは一緒にしたかったよ〜〜!!!
ケーキの材料だって買ったのに・・・・・・・・・・
ん?
ケーキ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あっ!
「そうだケーキ!!」
晩御飯は食べれなくてもケーキなら食べてくれる(はず)!!!
あたしは気を取り直して立ち上がると、早速ケーキ作りに専念した。
***
「で〜きたっ!」
あとは冷やしておくだけ。
ちょっと甘いけど、ちょっとスポンジが潰れてるけど・・・・・
入江くん、おいしいって言ってくれるよね?
あたしはケーキを冷蔵庫に入れるとエプロンを脱いで、2階に駆け上った。
最後はあたしの支度。
モトちゃんに渡された箱を取り出しながら、モトちゃんに言われたことを思い出す。
『これ、耳につけなさい。』
『わー!かわいい!!』
『でしょ?目立つようにね。』
『?・・・・・・うん。』
「凄いかわいいな、このピアス。・・・・・・・・何の石がついてるんだろう。」
造花といいピアスといい、モトちゃんは何をたくらんでいるのだろう。
でも、きっと・・・・・・・いいことだよね?
新しいワンピースを着て、髪もいつもと違って上げて・・・・・・・・・・・・・・・・できたっ!
鏡の前でくるんと一回転。
「完璧!」
あとは入江くんの帰りを待つだけ〜〜〜〜!
でも、帰ってくるのは多分・・・午後9時以降。
・・・・・・・・・そして今は午後4時。
あたしは下に降り、さきほどのソファに再度もたれかかった。
昨日興奮して眠れなかったせいか、眠気が襲ってくる。
ちょっとだけ・・・・・・・なら・・・・・・・・・・・・・いいよね?
次の瞬間にはもう夢の世界へ入っていった。
***
午後8時半。
思ったよりも早く家に着くことが出来た。
・・・・・・・どうせ待ち伏せしてるんだろうな。
俺はそんな思いを抱きつつ、家の扉を開ける。
「ただいま。」
しーん
・・・・・・・・・?
人の気配がない。
というか家中真っ暗だ。
「琴子?」
そう呼んでも反応がなかった。
まさかいきなりクラッカーとかじゃないよな。
そう思いつつ、俺は靴を脱ぐとリビングへと向かった。
「・・・・・・・・・・・・・・。」
琴子はすやすやと眠っている。
毛布もかけず、ソファの上で。
こんなところで寝てたら風邪を引くだろうが・・・・・。
「おい、起きろ・・・・・・・琴子。」
「ん〜〜〜・・・・・・。」
肩を揺さぶっても起きる気配は、ない。
その時だった。
「・・・・・・・・・・・?」
なるほど・・・・・・・・・・・・そういうことか。
どうやら今年のプレゼントは琴子らしい。
「じゃあ、遠慮なく。」
俺は琴子を抱きかかえると寝室へと向かった。
***
ん〜〜〜〜〜・・・・・やだ、くすぐったい。
なんだか身体が・・・・・フワフワする・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・えっ!?
ぱちっ
「な、何してるの!!!?」
「・・・・・・・・あ、起きたの。」
目が覚めるとそこは寝室で・・・・・・・・入江くんが覆い被さってた。
「な、なんでここに?仕事は?ていうか何時?」
混乱してるせいか言葉が溢れ出てくる。
入江くんはあたしの質問の全てに答えてくれた。
「9時。仕事は終わった。今は・・・・・・・・わかるだろ?」
わかんない、わかんない!!
これって作戦失敗なの〜〜!!?
「あ、あたし・・・・・・・今日は・・・・・・・。」
「俺の誕生日だろ?」
や、やっぱりばれてる。
「驚かせようと思って・・・・・・・。」
「驚いたよ。」
え。
う、嘘っ!!?
驚いてるの?作戦成功なの??
「こんな祝い方されちゃあな・・・・・・・。」
・・・・・・・・ん?
あたしまだ・・・・・・・祝ってないよね??
「・・・・・・・あの、何のこと?」
「誕生日プレゼント。」
「?」
「今年はお前だろ?」
???
ますます意味がわかんない。
あたしがプレゼント?
「入江くん、全然意味がわかんないんだけど・・・・。」
すると入江くんはニヤッって嫌な笑みを浮かべた。
「こういう意味。」
入江くんはあたしの着てるワンピースのファスナーを下ろし始めた。
たちまちあたしは赤くなる。
「い、入江くん!?」
あたしがプレゼントってそういう意味!?
急なことで、抵抗しても入江くんはやすやすと服を脱がせていく。
「なんでいきなり〜・・・・・あ、あたしちゃんとお祝いしたいのに・・・・・・。」
入江くんは服を脱がすのを止めるとやっぱりさっきと同じ笑みを浮かべながら言った。
「ムーンストーンとサンビタリア。」
「・・・・・?何それ??」
「これと造花。」
入江くんが耳についてるピアスに触れる。
その延長線上で髪がほどかれていった。
「・・・・・それとこれのどこに関係が・・・・・?」
「これの意味はな―――――――――」
「う、嘘!!そういう意味!?」
モ、モトちゃん!!
「そういうこと。・・・・・・・祝ってくれるだろ?」
入江くんの顔が近い。
「・・・・こ、これってお祝いしたことになるの?」
「もちろん。」
「ケ、ケーキ作ったの。・・・・・明日食べてくれる?」
「・・・いいよ。」
「・・・・・・入江くん。」
「ん?」
入江くんは優しくあたしを見つめる。
あたしはそんな入江くんをぎゅっと抱きしめた。
「・・・・・・・お誕生日おめでとう。」
+++
「モトちゃーん、見回りお疲れ。」
「もー、怖かったわー!!途中で懐中電灯の電池切れちゃうんだもの。」
あたしは懐中電灯を元の位置に戻すと窓からキレイな月が見えていることに気がついた。
「あーあ・・・・・あの二人ったら上手くいってんのかしら。」
いや、いってるに決まってるじゃない。
あたしなんか今日は夜勤なのに!!!
ふぅ・・・・・
それにしてもキレイな月。
あたしのあげたムーンストーンみたいに。
ムーンストーン、通称恋人達の石。
意味は愛の育み。
サンビタリアと意味をあわせると「私だけを見つめて、愛して。」
「はぁ・・・・・・・・あたしもイイ男見つけたいわ・・・・・・。」
とりあえず明日朝一番に琴子をからかってやろうと思うあたしだった。
選択1 moonlight−Fin−