writer:コウ
それは10月のある日のこと。
あたしは衣替えのために色々服を引っ張り出したりしていた。
「う〜ん・・・・・・・・・・もうこれくらい・・・かな?」
クローゼットの中をざっと見る。
もう他に秋冬服はなさそうだ。
「にしても・・・・・・・・・・・・・・・これどうやって片付けよう・・・・・・・・・。」
衣替えの途中でついつい何着も着替えてみたりしてしまった。
部屋には無造作に服が大量に置かれている。
ふと時計を見ると・・・・・4時だった。
(もう4時!?・・・・・・・・は、はやく片付けなきゃ!!!)
だけど、散らかりすぎてどれから手をつけていいかわからない。
「・・・・・・・・・・・・・こんなことだろうと思った。」
「・・・・・・・・・・い、入江くん・・・・・・・・。」
廊下にまで散らばっていた服を持ち上げながら入江くんが入ってきた。
「ちゃんと片付けれんの?」
「あ・当たり前じゃない、出来るわよ・・・・・・・・・・・・・あと2時間もあれば。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
入江くんが呆れ顔で近づいてきた。
あたしと一緒にクローゼットの中を覗く。
「もう服はとりだしたのか?」
「うん、あとは春夏服をこっちに入れるだけ。・・・・・・・・・・あ」
あんなところにも箱がある。
入江くんの顔を見上げた時に視界に入ってきたのだ。
「ね、入江くん。あの箱取って。」
「これか?」
入江くんは自分の目線にあるピンクの箱を取った。
「何が入ってるんだろ・・・・・・・・。」
パカ・・・・・・・・・・・・・・・・・バンッ!!!
「・・・・・・・・・・・・・・・・見た?」
「ああ。」
中に入ってたのは20歳の時にじんこ達から貰ったネグリジェだった。
ここ数年、見ないなーと思ってたら・・・・・・・・まさかこんな所に・・・・・・・・・。
「着ないの?」
「き・着れるわけないじゃない。」
「もう1回見せて。」
有無を聞かないまま入江くんはあたしの手から箱をもぎ取った。
そして箱を開けて中にある物をまじまじと眺める。
「い・・・・・・・入江くん!返して!!!!」
「ふーん・・・・・・・・こうなってるんだ。」
ピラリとネグリジェを掴んだ。
「似合うんじゃないの?」
入江くんは明らかにからかってる口調でそう言った。
「着てみてよ。」
え。
「む、むむむ無理!!!」
「なんで?」
「だ、だってそれ透けるてるし・・・・・。」
「普通こうなってるんじゃないの?」
「恥ずかしいし・・・・・・。」
「じゃあこのまま使わないのか?」
「そ・そりゃあ・・・・・・じんこ達には悪いけど・・・・・・・でも、でも・・・・・・・・。」
「着て。」
「〜〜〜〜〜〜〜っや、やだ。」
「見たい。」
じりじりと入江くんの顔が近づいてきた。
耳元で甘く囁かれる。
「・・・・・・・・・・・・・琴子。」
「だ・・・・・・・・・だめだよ・・・・。」
「見たい・・・・・すっごく。」
「でも・・・・・でも・・・・・・・・・・・・。」
やっぱり無理だよ、という言葉は続かなかった。
入江くんの大きな手があたしの頬を包み込む。
甘く、とろけるようなキスに身体中の力が抜けていくのを感じた。
***
最初は冗談のつもりだった。
あいつの怒った顔が見たくて、構ってほしくて。
でもからかわれ、恥ずかしそうにうつむく琴子を見た途端―――――
スイッチが入ってしまった。
「・・・・・・・・・・・・・琴子。」
「だ・・・・・・・・・だめだよ・・・・。」
「見たい・・・・・すっごく。」
「でも・・・・・でも・・・・・・・・・・・・。」
あともう一押し。
熱いキスのあとに一言。
「・・・・・・・・・・・着て・・・くれるだろ?」
――――――――――こくん
顔を覗き込んで少し熱っぽく囁けばこっちのもの。
多分、ぼぅっとしてて何を聞かれてるのかわかってないだろう。
「じゃ、よろしく。」
「・・・・・・・・・・・え。あ、あれ?あたし・・・・・・・今、なんて・・・・・・・・・・・。」
俺が顔を離すとさっきまで火照っていた顔はまるで嘘のように青ざめた。
その顔には「しまった」と書かれてある。
「ね、ねぇ・・・・・・・・やっぱり取り消・・・・・・・。」
「ほら、早く片付けろよ。・・・・・・・・夜までにな。」
「よ・・・・・夜って・・・・・・・・・い、入江くん!!」
俺は琴子の呼びとめも聞かず、さっさと部屋から出て行った。
今、部屋の中では琴子がパニック状態に陥ってるに違いない。
(もう夕方か・・・・・・・)
きっと夜にはまた真っ赤な顔をして―――――無意識に俺を誘ってくるんだろう。
多分・・・・・・・・我慢なんかできない。
俺のスイッチを入れれるのはあいつだけ。
俺の気持ちを動かすことができるのもあいつだけなんだから。
衣替え−コウさま編−Fin−