噂3




妊娠の噂も静まったある日、もっととんでもない噂がささやかれているのを
琴子は知らなかった。

「…ねぇ、琴子。入江さんてあっちのほうどうなの?」

発端は桔梗幹のこの一言だった。

「あっちって、どっち?」
「あっちって言ったらあっちでしょ」
「だから、どっち?」
「ん、もう、鈍い娘ねぇ」
「ずばりエッチに決まってるじゃない」

品川真里奈が琴子の耳元でささやいた。

「きゃー、真里奈だいたん!」
「だって、鈍いんだもの。はっきり言わないとわからないわよ」

言われた琴子はそのままの姿勢で固まっていた。

「あら、いやだ。固まってるわ、この娘」

桔梗が琴子の顔をのぞき込んだ。

「生娘じゃあるまいし、結婚してるんでしょ、あんたたち」
「モトちゃんのほうこそ、身も蓋もない」

そして二人で琴子の顔を見つめて言った。

「で、どうなのよっ」

我に返った琴子は顔を真っ赤にして、後ずさる。

「え、だって、入江くんは、だって」
「え、まさか早漏とか」

いやー、と桔梗が頬を押さえる。

「な、なに?ソ、ソウロウ?」
「早漏も知らないのっ?!」

真里奈が笑って唇を舐める。

「んー、絶倫…とか」
「ゼ、ゼツリンって?!」

ちんぷんかんぷんな言葉の羅列に、ますます頭を混乱させる琴子。

「一晩に何回くらい?」

二人で身を乗りだして琴子に迫る。

「か、回数って重要なの?」
「重要よっ!!」

二人して力強く答える。

「お、多い方がいいの?」

恐る恐る琴子は聞きなおす。

「少ないよりはいいでしょ」
「多すぎてもダメよね」
「あら、そうなの」
「だって、モトちゃん、しつこい男って嫌よね〜」

その言葉にしばし無言になる琴子。
どんどん頭がパニックを催してきて、
「だって、入江くんてば」
と一人で慌てふためいている。

そんな琴子を見ながら、桔梗と真里奈はなんとなく質問したことを後悔する。
二人でこそこそと話し始める。

「ちょっと、真剣に悩んでるわよ」
「だって、モトちゃんが」
「何言ってるのよ、あんたが多すぎてもダメって言うから」
「ってことは、よ?」

真里奈が琴子を盗み見る。
桔梗も同じように琴子を見る。

「バカな質問したわね、あたしたち」

二人でため息をついて、それ以上の質問をやめた。


 * * *


廊下で直樹に会った二人。
思わず口走る。

「入江さん、あの娘あまり酷使しないでくださいね」
「そうそう、実習大変だし」

直樹は平然と言ってのけたという。

「それでも琴子は元気だろ?」

二人は絶句して、それ以上聞く勇気はなかったと言う。

「それって、つまり認めたってことよね?」
「あの夫婦、ただものじゃないわ」
「さすが入江さん」
「そうね、さすが琴子よね」

そして、二人でうっとりとつぶやく。

「…うらやましい」

そして新たな称号が直樹に加わる。

『家族計画も完璧なゼツリンの男』


噂3−Fin−(2006/10/23)