イタkiss祭り2021拍手企画



ドクターNと夢の世界16


新年会が近づいている。
婚約者は筆頭侍女なので、ものすごく忙しい。
多分王太子殿下が結婚するまで忙しいのだろう。
え?僕との結婚は?
そこは考えてるけど考えないようにしている。
どう頑張っても彼女のほうが結婚する時期の権利を持ってるっぽい。
僕はいつでも準備できてるけどね。

「でも王太子殿下が御結婚されれば、一気に事が進むかもしれませんよ」
「一気に…?」

今日も医療所でたまに来る怪我を負った騎士などを手当てしながら過ごしている。
助手を務める侍女が僕の結婚について言いたいことがあるらしい。
この侍女とかなりの時間を一緒に過ごしているけれど、色艶めいたことは一切起こりそうにない。
何と言うか、いつもいいように動かされている気がする。

「あの方は筆頭侍女でいらっしゃるから、王太子殿下にお子様が生まれれば乳母としてのお役目が必要となるかもしれませんよ」

王太子殿下から生まれるような物言いだけれど、産むのは令嬢だからそううまくいくかな。

「だいたいまだあの二人、意思の疎通できてないよね?」
「え?あの二人?王太子殿下と宰相補佐ですか?」
「違う!」

どういう勘違いだよ、全く。

「この場合、やはりお産みになるのは宰相補佐の方かしら」

何その怖い妄想。

「不敬を通り越して打ち首獄門だよっ」
「え?ムチ打ち拷問?」
「やめてー」

薔薇の会、怖すぎる…!

 * * *

ピンク髪の五輪織子が眠り始めてからそろそろ四日目になる。
時折目を覚ますがすぐに眠り、食事も摂れないため二十四時間点滴を入れ、ひたすら目覚めを待っている。
彼女も現実の世界ではなく、夢の世界をいまだ漂っているのかもしれないが、このままでは衰弱する一方だ。
夢の世界は僕も切れ切れにしか思い出せないが、彼女のようなピンク髪の女性が出てきた気がする。
ただ、そこはこことは違う完全なファンタジーな世界で、いわゆる異世界とでも言うべき世界だから、漫画家アニメのような感覚で、ピンク髪も金髪も青髪も違和感がない。
だから、夢に出てきたピンク髪の女性と彼女が同一人物であるかどうかすらわからない。
僕の夢の世界なのだから、僕が中心なのは当たり前で、夢の世界と現実の世界はかけ離れていても何ら不思議はない。

「ほら、世界がウイルスによって閉塞感一杯で引きこもりの時間が長かったせいで、夢の世界に閉じこもる人が増えたんじゃないかっていう分析があったけど、そんなに現実って嫌なものかな」

誰とはなしに研修医に話しかけると、研修医からは「僕らは疲れ果てて夢も見ずに寝てるし、寝たと思ったら起こされるしで、そんな夢の世界に行けるような時間はありませんけどね」と言われた。
誰もそんな解答求めてないよ…。

「…悪かったよ。頑張って研修を終えてぜひ外科に来てくれるといいな、と」
「…いやあ、外科ですか…」
「外科って人気ないのか」
「呼び出し多いじゃないですか。時間が来ても術後の患者いると帰れないし、手術時間延びるとそれだけで遅くなるし」
「昔は花形だったんだけどなぁ」
「今の時代は直美の人間も増えましたからね」
「直美かぁ…」

直美とは、研修医から直接美容外科に進む医師を意味するのだが、この頃は美容外科が高給だというあおりを受けて増えているんだよな。

「去年、直美に行った先輩いましたけど、技術によっては月にこれくらいいくらしいですよ?」
「え、マジ?」

その金額はちょっと言えないが、僕の給料の倍以上ある。

「いや、ちょっと考えちゃうね」
「ですよねー」

いやいやいや、そんなのにつられないで真っ当に研修終えて誰か外科に来てくれないと。

「入江先生が美容外科やったらめちゃくちゃ儲かりそうじゃないですか」
「なんで入江」
「え?普通にビジュいいから釣られて患者が来そうじゃないですか」
「じゃあ僕だって可能性あるよね?」
「そうですね。でも入江先生がにっこり笑いながらユーツーブとかで病院の宣伝出たらものすごく儲かりそうなんですよね」

おまえは経営コンサルか!
でも残念だったな。あいつがにっこり笑うのは、琴子ちゃんにだけなんだよ。
しかもお仕置を予定してる時だけだ。
まだまだおまえは入江をわかってない。

「…先生、そんな入江をわかってるのは俺だけだみたいな顔しないでくださいよ。最近噂のあれは本当かと思っちゃうじゃないですか」
「…あれって、まさか」
「僕の彼女が持ってた禁断本ですよ」

僕はなんとなく脱力した。

「言っておくが、僕にそんな趣味はないし!あいつは琴子ちゃんにしか起たない変人だし!そもそもそんな本を目の前にしたら、力づくで破り捨てるくらいのことはするぞ」
「えーと、…気を付けるように言っておきます」

研修医はドン引きした顔でそう言った。
入江の評判がどうだろうと僕には関係ない。

それにしても、怖すぎる、斗南薔薇同盟…。

(2026/01/02)

To be continued.