イタkiss期間2019拍手企画



トップナイフかもしれない世界


脳は、この世に残された唯一の未知の領域かもしれないとかなんとか。
(作者注:あくまでトップなんちゃらかもしれない世界なので、同じセリフは使えません)

「そうだね、脳ほど神秘に満ちて、繊細で大胆なものはないよ」

ここでBGMスタート。
ちゃっちゃっちゃ〜…(情熱大陸とかなんとか)。

やあ、こんばんは。
ようこそ、大蛇の森の世界へ。
僕はこのマイクロシザ―ナイフで、不可能と言われた脳腫瘍の手術を成功することができた。
そうなんだよ、実は手術の最中は術野が細かくて、メスはあまり使わないんだ。
いやぁ、あの時はアプローチが難しくてね…。
僕が華麗なるメスを握っている手術の様子は、DVDになっているから、後でよかったらじっくりと見てくれたまえ。
特に20分過ぎの僕が出てくるところから、ハイライトは80分を過ぎたあたりの緊迫したところが見どころだよ。

僕の趣味?
休日は、僕の脳を休める意味でもワインをたしなんだり、バイオリンなんかも少々弾いてみたり、料理なんかは好きだね。
どこかのチンチクリンな女とは違って、僕は料理を作る腕前も一流。
うん、一流を知る人間は、なんにでも精通しているものなんだよ。
ほら、これも昨日から煮込んだビーフストロガノフなんだけどね、どこかのチンチクリンなんて、きっとこれがどこの国の料理であるか、ハッシュドビーフ…いや、ハヤシライスと何が違うのかきっと区別なんかできないことだろう。


 * * *

「うえ…あたし、もう見るの耐えられない」
「そう言わないで、結構面白いじゃない。ところどころ誰かさんに当てこすりみたいな話が出てくるけど」
「そうよ、それが嫌味なのよ!何よ、ビーフ…ビーフ…」
「ビーフストロガノフ?」
「そう、それよ!そんなの入江くんにだって作れるわ!」
「いや、琴子、それ何の自慢よ」
桔梗幹はため息をついた。

 * * *

尊敬する人?
アメリカの脳外科の権威…(なんちゃらなんちゃら)…。

気になっている人は…もちろんいますよ。
ストイックで、勤勉で、努力を決して怠らない人で、もちろん手術の腕も僕に引けを取らない一流の人間。
加えて容姿端麗で、非常に僕の好みの…。

 * * *

ブッチン。
「あ、琴子、何で切るのよ〜、まだ全部見てないのに」
「十分よ、これで。十分を通り過ぎて百分よ!」
「あんたその意味知って使ってんの…?」
「あいつの好みなんて知りたくもないわよ!」
「まあ、まあ、まあ、まあ」

 * * *

ライバル?
それはメスを握るうえで?それとも恋敵?
ふふふ…。
今の病院に僕のライバルとなり得るのは、先ほどの一流の先生ですかね。
残念ながら脳外科ではないんですよ。
ええ、本当に残念なことです。
僕の下に来たのならば、それこそ手取り足取り、厳しくも素晴らしい世界に連れていけるはずなんですが…。
ええ、あの先生ならば、たとえ科が違おうとも、すぐに追いついてくるでしょう。それくらい優秀な先生なんです。
え?既婚者かって?
………はぁ…。
どこであんなチンチクリンと出会ったのか。
ああ、一方的に追いかけた結果でしょう。
そりゃもう地獄の果てまで追いかけるくらいの勢いで、しつこくしつこく…。

 * * *

「ぶっはっはっはっはっは…あー、おかしい!」
「何がおかしいのよ、モトちゃん」
「だって、概ね間違ってないというか…」
「失礼ね!忘れてるかもしれないけど、入江くんは結構早くからあたしのこと…、
もがっ」
「余計なことしゃべるな」
「入江くん!」
「ま、入江先生」
琴子が直樹にすかさず抱きつくと、直樹は軽く受け止め、空いた手でDVDの画像を止めた。
「ひどいのよ〜。あることないこと適当なことをしゃべってるし」
「ふーん、で、いつ放送するの、これ」
「へ?」
直樹の言葉に桔梗幹がDVDのケースを見た。
「さあ。そんな話は聞いてません」
「なんだー。見て損したー!何よ、自慢げにこんなの持ってきちゃって。
こんなの…えい!」
哀れ、DVDはケースごと休憩室のごみ箱に葬られたのだった。
「あ〜あ。知らないわよぉ。後で感想聞かせてくれとかなんとか言ってたから」
「ぺーっ、ぺっよ。
見たいならモトちゃん一人で見て。あたしはもうごめんよ」
「えー、一人で見たくないから一緒に見てほしかったのに〜」
「入江くん、仕事もう終わり?一緒に帰りましょ」
そう言って、琴子はさっさと帰っていった。
桔梗幹はしばらくゴミ箱の中のDVDを見ていたが、気づかなかったことにして帰ることにした。

その後休憩室にあからさまに捨てられていたDVDを興味本位で見たナースたちは、皆悲鳴を上げるか、爆笑するかなどして、声を枯らしたという。
そんなDVDの出演者は、今日も華麗なるメスさばきをしているので、もしかしたら実は結構トップナイフかもしれない…。

 * * *

では、また、大蛇の森よりお会いしましょう…。

(2020/06/11)