Trick or Treat…



10000Hit御礼キリリク トモちゃん さま









「Trick or Treat…」


入江くんの吐息が耳にかかった。
肌寒くなってきた季節に少しだけ熱く感じる。
でも、それだけじゃなく、あたしの身体も言葉一つで熱くなってくる。


「何もくれないなら、イタズラしたって構わないんだろ?」


え、だって、それは子どもの…。


「だけど、おまえは子どもじゃないって言ったよな?」


入江くんのささやきは、あたしの耳をくすぐる。
丁寧に髪を後ろへなでつけて、あたしの耳の後ろへかける。


「…琴子」


入江くん、疲れてるの?


耳元で聞こえた声はそっとささやくような声。


それとも風邪をひいてる?


ささやく声がかすれてる。
でも、それがとてもあたしの心を落ち着かなくさせる。

耳元に口づけてくれた入江くんの目があたしを見つめる。
あたしを抱きしめる入江くんの腕。
暖かく包まれて、あたしは夢見心地で入江くんにもたれた。


なんだか、さっきまでの夢の続きを見ているみたい。
夢の中では、入江くんがあたしをエスコートしてくれたの。
入江くんがたとえパーティに出たとしても、エスコートなんてしてくれないかもしれないけど。


見つめ合ったら、優しくキスをして欲しい。
あたしの心を読んだかのように触れる唇。
優しくて甘い、お菓子のようなキス。


「こんな服、もう着るなよ」


少し怒ったような声。


どうして怒るの?
入江くんに見てもらいたかったの。
皆は含み笑いをして、誰もほめてくれなかったけど。


「…バカだな」


あたしの目を見つめたまま、キスをしながらそうつぶやく。
あたしはバカだけど、ちゃんとわかるように説明して。
首筋をなでられて、くすぐったさについ顔をそむける。


「こっちを見ろよ」


そう言われると、なんだか急に恥ずかしくなって、入江くんの顔が見れない。
片手で強引に入江くんの方に顔を向けられた。
怒ってると思ったのに、その顔があまりにも優しくて、吸い込まれるようにあたしから口づけた。
それが合図のように、繰り返しキスをした。

不意に背中に触れられた手の大きさに驚いた。
背中から伝わる入江くんの熱。


ねえ、本当に、風邪、ひいていないよね?


キスの合間の問いかけに、入江くんは笑う。


「おまえこそ、こんなに短いスカート着るなよ」


だって、お義母さんが…。


言いかけたあたしの声を口でふさぐ。
スカートから出た足に感じる熱。


あたしは大丈夫、風邪なんかひいてない。


「誰が風邪の話をしてるんだよ」


違うの?


首筋に吐息を感じて、思わず入江くんにしがみつく。
背中の素肌はもう入江くんの手で晒されていて、少しだけ肌寒く感じる。
首筋から徐々に下がっていく唇の感触に耐えられなくて、なおも入江くんにしがみつこうとした。
その手を入江くんにつかまれて、あたしはもう身体を起こしていられない。


「こんな格好、二度と人前でさせない」


こんな格好って、この服のこと?
そ、そりゃあ、ちょっとばかりスカート短いかなって思ったけど。
…それって、もしかして、ヤキモチ妬いてくれたってこと?







                 バーカ、気付くのおせぇよ







今のは空耳?
触れ合う素肌の熱さに、息ができない。


入江くん、熱があるなら…。


「俺が風邪なら、おまえも風邪だろ」


息が乱れる。
身体が熱くて、自分でもどうしようもないほどの心地よさに、どんどん深みへとはまっていく。

…入江くんも、同じように思ってくれてるの?
入江くんの身体が熱いのも、声がかすれてるのも、全部あたしのせいだと思っていいの?







                 …琴子、おまえだけだよ…







ねえ、よく聞こえない。
入江くん、あたし…だけ?
こんなにも入江くんの息が乱れるのも、こんなにもきつく抱きしめてくれるのも。
声にならない声が、入江くんに届きますように。

入江くん、大好きなの。
今までも、これからも。







                 …もっと







…もっと?


ああ、だって、もう、頭の中が真っ白で、考えられない。
入江くんこそ、もっとあたしに教えて。
入江くんの気持ち。







                 …愛してるよ







うん、愛してる。
ずっとよ。


夢じゃないよね、これ。
それとも夢?
身体はふわふわして、頭の中は真っ白で、自分でもどうしていいのかわからない。
それなのに、入江くんを感じる。
入江くんが触れたところ全てが熱くて怖い。
怖いから、あたしはますますしがみつく。
触れると熱くてたまらないのに、触れていないともっと不安になる。
触れていないところは肌寒くて、もっと入江くんに包んでほしくなる。

だから、もっと、抱きしめて。

熱がひいてもひかなくても、この幸せな気持ちはきっとなくならない。
産まれたての子どものように震えて、そして泣きたくなるの。
怖いけど、幸せで、これからの希望になる。


「怖い?」


幸せすぎて怖いってことね。







                 俺も怖いよ







入江くんも怖いの?
どうして?
幸せすぎて怖いなんて、入江くんも思うの?


「俺の場合は…」







                 琴子を失うこと







あたしが…何?

もっと、もっと。
愛してるって言って。

…もう、だめ、声にならない。







                 琴子、琴子…







                 …愛してるよ







入江くん、愛してる…。





Trick or Treat…(2005.12.06)−Fin−