Kissしたくなる10のお題



02 ふいうち


それは静かな夜。
また難しそうな本に囲まれている。
あたしはそっとコーヒーを持って近寄っていく。

「ああ、ちょうど休憩しようと思ったから」

静かに近寄ったつもりだったのに、また気づかれた。
時々驚かそうとそっと近づくのに、いつも直前で声をかけられる。
やっぱりわかっちゃうのかな。
気配?それとも勘?

「う、うん。そろそろかなって思って」

あたしは仕方なく隠し持っていたカップを差し出す。

「まだかかりそうだなって思ったから、コーヒーにしておいたんだけど」
「ああ、もらう」

いつも気づかれるのが悔しくて、あたしはちょっと考えた。

いつも構えていくからわかっちゃうのかな。
何気なく入江くんに近づいたら、もっと驚いてくれるのかも。

少しだけため息。
そして机の上の本と書類を見る。

まだ寝ないのかな。
もう少しおしゃべりしたかったけど。

あたしは飲み終わったカップを受け取って、入江くんに「おやすみ」とあいさつをする。
入江くんはもうこっちを見ていない。
目は本に向けて、「おやすみ」と返す。

ドアに行きかけた足を止めて、
ふいにあたしは入江くんの頬にキスをした。

こっちを向いて。
ただそれだけのつもりだったのに。

意外にも入江くんは少しだけ驚いた顔をしている。

ああ、なんだ。
こんな簡単なことだったんだ。

あたしは笑ってもう一度おやすみのキス。

こんな顔が見られるのなら、たまにはふいうちのキスも仕掛けよう。

もしも途中で気づいても、気づかない振り、していてね。


ふいうち−Fin−(2007/03/05)