04 目覚まし代わり!?
目が覚めると、いつも隣にいたはずの人はいなかったりする。
昨夜は確かに抱き合って、腕枕もしてもらって、その体温を感じて眠りに就いたはずなのに。
少しだけ不満気に口を尖らせると、目覚まし時計を見た。
そう、愛しい人はとっくに起きている時間だ。
いつも先に起きて「あなた、朝ですよ」と新婚夫婦の定番とも言える会話をしてみたかったのに、実現できたためしはない。
なぜなら、いつも目覚まし時計に気付かないからだ。
珍しく早起きできた日に呼びにいくと、既に起き上がって準備万端でいることも少なくないだんなさま。
ごくたまに眠っている日は、起こすのも忍びない夜勤明け。
海外ドラマのような「おはよう、ダーリン」「おはよう、ハニー」とキッスを交わすのが密かな夢だったりする。
「…なぁんて、入江くんがやるはずないわよねぇ」
そんなことをつぶやきながら起き上がると、部屋のドアが開いた。
「…やっと起きたか」
そんな味気ない起こされ方、なんか違う…。
そう言いつつベッドから出ると、愛しのだんなさまはフン!とばかりにクローゼットの戸を開けた。中から上着を取り出している。
「目覚ましがんがんかけてるくせに何で起きねーんだよ」
「だって、つい…。入江くんがキッスで起こしてくれたり…」
「…するわけないだろ、バーカ」
「…そう言うと思った」
ベッドのそばに立ち上がろうとしてスリッパを探していると、不意に視界が暗くなり、上を見た。
少しだけ怒った顔のだんなさまがおくさまを見下ろしている。
「入江くん?」
そう言った唇に有無を言わさず唇が合わされる。
「んっ、んんっ?」
目を白黒させながらキッスを受け続ける唇に舌まで割り入れられ、預けられた体の重みと急に与えられた感触に耐えられず、そのままふぁさっとベッドに倒れこんだ。
「ん…ふぁっ…」
ようやく離れた唇から名残惜しげに滴る液と天井と意地悪気に笑った顔が見えた。
「目が覚めたか?」
理想は、こんな濃厚なキッスじゃなくて、こんな意地悪気な顔じゃなくって…。
「俺にとって、キスが目覚ましなんてありえないね」
いけしゃあしゃあと言ってのける顔を見ながら息を吐く。まだ顔の赤みが取れない。
「…コーヒー、待ってるんだけど」
そう言われて、ようやくもう一度起き上がった。
キッスもいいけど、「あなた、コーヒー」もいいじゃない。
「はーい」
元気に返事をして寝室を出て行く。
朝からこんな腰砕けのキッスをされるくらいなら、がんばって目覚ましで起きる決意を固める懲りないおくさまだった。
04 目覚まし代わり!?(2011/06/27)−Fin−