ラブラブエロで10題



2.してアゲル


入江くんがいつ帰ってきてもいいようにしておく。
これはもちろんいつものことだけど。
夕食に間に合うかな。
今日は土曜日で手術もないし、外来もない。
重症な患者さんがいない限り当直でもないから早く帰ってくるはず。
家族揃ってのお祝いはとりあえず自粛。
お義母さんがどうしてもって言うから、飾り付けだけは目一杯しておいた。
あたしもそれくらいはいいと思って、部屋の中にもおめでとうのカードや幕が飾ってある。
これを見て入江くんは顔をしかめるかもしれない。
そう思うとひとりでにふふふと笑い声が出てしまう。
毎年、入江くんの反応を見るのも一つの楽しみになってしまった。
顔をしかめて嫌そうだったり、それでもふっと顔を緩めたり、心底嫌そうなときもあったり、今にも怒り出しそうなときや見た瞬間に怒鳴ってることもあったり。
怒られると怖いけど、それも入江くんらしくて好き。
子どもたちも揃って一緒にどたばたとはしゃいでみたり、それぞれ驚かそうと工夫してみたり、そんな子どもたちに満面の笑みを見せてくれることだってある。
ちょっと悔しいけど、あたしにはいつも意地悪めいた顔しか見せてくれない。
でもそれも入江くんだもんね。
いつの間にかその顔がわりと機嫌がいいんだってこと、知ってしまったから。

「さあ、お父さんはいつ帰ってくるかわからないから、先にご飯食べちゃいましょうね」

お義母さんの掛け声に皆は素直に声を揃えて返事をする。
あたしも食事の用意をしながら笑顔になる。
子どもたちがおいしそうに食べてくれるとほっとするもんね。
最後にケーキを切り分けて、先に食べてしまう。
どうせ入江くんはケーキに口をつけないし、食べたいのは主に子どもたちだし、お祝いの気持ちがあればケーキにこだわる必要ないもんね。
昔は子どもたちも泣いて入江くんが帰ってくるのを待ってるって言ってたものだけど。
それにしても、あたしが先に誕生日が来てしまうのがちょっと悔しいな。
前はあたしのほうが年上〜ってはしゃいでいたのに、いつからだろう。
なんだかちょっと複雑な気分だわ。
子どもたちはパパからお父さんって呼ぶようになったのに、あたしはいつまでたっても入江くんのまま変えられなかった。
毎年そんなこと言ってるか…。
進歩ないのかも。
ケーキをのんびりと食べて振り向くと、リビングには誰もいなかった。
子どもたちはお風呂に行ってさっさと部屋に行って寝てしまったらしかった。
…なんて察しのいい子たち。
時間は刻々と過ぎる。
本当に自分の誕生日忘れちゃってるんじゃないかしら。
すごーく早く帰ってくるかもと思ったけど、案外土曜日の夜っていうのがいけないのかも。
急患で外科の呼び出しありそうだし。
うーん、でもなぁ。
でも、今日がもうすぐ終わっちゃうよ?
十二時を過ぎたら、約束は、なし、だからね。


 * * *


「おい、琴子」

揺すってみるが、なかなか目を覚まさない。
思わず鼻をつまむ。

「ふ、ふがっ」

妙なうめき声を出して飛び起きた。
…ふがって、いい歳した女が…。

「はははは…」

思わず声に出して笑うと、ようやく目覚めて俺を見た。

「入江くん、お帰り。…遅かったね」

ああ、やっぱり。
少しだけ恨めしそうにそう言って、時計を仰ぎ見る。

「一つ手術を手伝ってきたからな」
「そっか。やっぱりね」
「でも当直じゃないから担当医にはならないだろうし、さっさと任せて帰ってきた」

もちろんさっさと帰ってきたわりには、既に十二時まであと三十分。
静まり返った家の中は、誕生日当日にしてはあまりにも不気味だ。

「…何でだか、みんな部屋に行っちゃった」
「ふうん、察しがいいじゃん」
「そ、そうね」
「さあ、時間がないから」
「…覚えてた?」
「俺がああいうことを忘れると思うか」
「…思わない」

琴子を促して寝室に行く。
これだけで琴子は顔を赤らめてもじもじと階段を上っていく。

「あ、あの、入江くん、お風呂は」
「手術後にシャワー浴びてきた」
「そ、そっか。えーと、あの…」
「約束だろ」
「うん、そうだけど」

寝室に入ると上着を脱ぐのを手伝ってくれたりしたが、さすがにすぐにベッドの上に行くというわけではない。
しゅるりとネクタイを緩めると、びくりと琴子の体が震えた。

「手伝ってくれないの」
「え、でも、それ以上はちょっと」

もう一度目をのぞきこんで言う。

「約束だろ」
「…はい」

冬の入口にしては肌寒そうな格好をしている。
羽織っている上着がなければ速攻で着替えてこいと言うところだ。
それでもその格好は俺を待っていた証でもある。
ベッドの上に座ると、ひとつひとつ服を脱がされる。
少しだけもどかしくて、じれったい。
イタズラ心を起こして琴子の上着の中に手を差し入れて、上着を滑り落とす。

「もう!もうちょっと待って」
「…待てない」

琴子は困ったように、それでいてごくりと息を呑む。
目が合って、キスを仕掛けてくる。
これくらいは積極的にきてくれないと、誕生日の醍醐味がない。
小さな唇が俺の身体を滑り降り、柔らかな手が身体をなぞる。
これだけで俺のほうも十分煽られる。
やがてその手が目当てのものを探り出すと、少しだけひんやりとした感触のまま握る。
ゆったりと弄ぶように握ったり擦ったり、少しずつ刺激を繰り返す。
目の前で微かに揺れる二つの膨らみに無理矢理触れると「あ、ちょっと」と身を捩る。
それくらいでやめるわけがないのに。
膨らみの頂点は硬く主張しだして、摘まむのにもちょうどいい。
残念なのは、どんどん琴子の身体が下がっていき、そろそろ潤ってきただろう狭間に手を触れられないことだった。
今日はこういう趣向なんだから、十二時を過ぎるまで好きなようにさせておくか。
やがて生暖かくて緩やかに動く舌に刺激されて、俺のモノも十分にそそり立ってきた。
琴子の口の中も十分に狭くて、動き回る舌ももちろんそそられるが、蜜の中はまた別。
他の誰かの中には全く興味がないのに、今琴子の中はどんな具合だろうと気になるのだ。
一所懸命に俺の様子を窺いながら舌を這わす。
自然に息が漏れるのがうれしいらしく、目だけが輝くように見開いたり閉じたりする。
薄っすらと目の縁が赤みを帯びてくるのは、欲情しているんだろうか。
琴子への刺激をほとんどしないまま、約束どおりに俺のモノを咥えている。
もちろん普段でも促されればするのだが、それとこれとは別、らしい。
十分に触らせてくれるほうがいいだなんて、多分知らないんだろう。
時計を見ると、そろそろ時間切れだ。
それでも琴子はまだ気づかない。
このまま一度果てるのも悪くはないが、できればやはり好きなようになぶるのがいい。

「琴子、時間」

赤くなった耳に触れながら言うと、「んん…」とくすぐったそうに身を縮めた。
ゆっくりと口を離すその動作に見入りながら、琴子の身体を持ち上げた。

「いいの?」
「もういいよ」
「だって、入江くんの誕生日だったのに」
「もともとどうでもよかったからな」
「…あたし、下手だった?」
「下手以前の問題」

琴子は勘違いをして目が潤む。
こういう顔が見たくてわざと意地悪なことを言うってそろそろ気付いたらどうだ?

「俺のほうが我慢できない。…焦らすなよ」

そう言って琴子をベッドに押し倒した。

「…だってね、してあげたかったの」

開いた唇を塞いで、まだ身につけていた下着を取り払う。
その中は既に垂れるほどに濡れていた。

「こんなに濡らして…いやらしいな」
「…あ…」
「今度は俺がしてやるよ」

とっくに時計は十二時を過ぎている。

「朝も言ったけど…誕生日おめでとう。やっとあたしと同じ歳だね」
「…そうだな」
「来年も…また一緒に歳をとっていこうね」

触り足りなかった手が琴子の肌を弄る。

「…こうやって?」
「…うん。入江くんが望むなら」

狭間のその奥、溢れ出る蜜を指で掻き出しながら俺はささやく。

「来年もしてくれるんだ」

しばらく沈黙の後、琴子は小さく言った。

「…してあげる」

俺はその答えに満足して、琴子の中に入っていく。
来年も再来年もこの温もりに包まれたいのは、多分…俺のほう。

(2011/11/13)Fin