3.幸せ家族計画
「い、入江くんは、その…赤ちゃんがすぐにできないようにしてくれてるのよね?」
おずおずと、それでもきっぱりと琴子が言った。
今更何なんだ、と思わずにはいられない。
「あたし、あまり見たことないんだけど、その、あれよね、あれ」
あれって、あれのことか、と直樹はベッド脇の引き出しを開けた。
そこにはあれが入っている。
箱ごと出して琴子の目の前に出した。ちょっとした嫌がらせだ。
「わ、なんで今出すのよ」
あたふたと顔を赤らめ、後ずさる。
看護学生で、既婚者で、いい歳したものの態度ではない。
まるっきり女子中学生のような反応だ。今時女子高生でさえ持ち歩いているかもしれないというのに。
「これがどうしたんだ」
意地悪気な顔をして直樹が箱を振ると、中からカサコソと軽い音がする。どうやら中身は減っているようだ。
「だって、その、それを使ってると赤ちゃん、できないのよね?」
「…絶対とは言えないが。確実に使えばかなりの確率で上手くいくと思うが」
「そ、そうなんだっけ。
えっと、その、赤ちゃん、欲しいときはどうすればいいのかな」
「…すれば?」
「え、ええっ、な、何を」
「何もつけずにすれば、もしかしたらできるかもしれないぞ」
あっさりと、平然と言ってのけた直樹に、琴子は首まで赤く染めながら更に後ずさる。
「で、で、でも、あたし、まだ学生だしっ」
「そうだな。だいたい、あまり見たことないっていうのもよくなかったかもな」
「そ、そうよね。いつも入江くんに任せっぱなしで…」
「へー、じゃあ協力してくれるんだ」
「う、うん、ちゃんとあたしも協りょ…」
ぼすっと琴子はあっという間にベッドに押し倒された。
どうしてこういう展開になると予想できないのか、と直樹は琴子に笑いかけながら色づいた首筋に唇を這わせる。
「な、なんで?」
「実践に決まってるだろ」
「じ、実践…」
「だいたい看護師が家族計画もできないんじゃ困るだろ」
「そ、そっか」
「…ばーか」
可愛いバカ嫁の服を軽々と剥ぎ取りながら、内心直樹は舌を出す。
やすやすと騙される琴子が悪いのか、口先で丸め込む直樹が狡猾なのか。
「や、ちょっと、待って…」
実践と言われ、ちょっと着け方を教わるだけのつもりだったのに、と琴子は思っているが、そもそも着けるだけでも問題があるということに気がつかないほうが「ばーか」というものだろう。
起立した胸の頂を刺激されながら、下から溢れ出した蜜を指でかき混ぜられ、既に息も上がって、肝心なものを入れられる前に意識も絶え絶えといった感じだった。
「ほら、協力してくれるんだったよな」
そう耳にささやかれて、琴子は閉じていた目を見開いた。
まさか、今から実践で?と驚いたが、そのまさかだ。
「ほら、袋を破って…」
「え、ふ、袋…」
少し力の抜けた手は、袋を破るのも一苦労だ。
「変なところを破って中身を傷つけるなよ」
手渡された袋を破って半身を起こすと、目の前にはもちろん…。
琴子は手に持ったゴムと直樹の起立したモノを思わず見比べている。
「…これ、入るの…?」
「サイズは合ってる」
「そ、そうですか」
「…ときもある」
「え?」
「別に」
素知らぬ顔で直樹は指示する。
「裏と表間違えずにはめて」
「…よくわからない…あ、待って、わかった。こっちよね」
それが直樹のモノだということもすっかり忘れて、夢中でゴムと格闘している。
ただはめて下ろすだけの作業に時間がかかるのは、不器用な琴子だからだろうか。
「なんだか…その…はめにくい…というか、さ、サイズが…」
ごにょごにょと言葉を濁して、琴子は直樹の顔を見上げた。
「ああ。
おまえがもたもたしてるから、これじゃダメだな」
「だ、ダメ?」
「こっちのサイズを…」
もう一つ別の箱から取り出したゴムをまた渡された。
「さっきのじゃ、ダメなの?」
琴子が袋を破りながら聞くと、ふっと笑って早くしろと促された。
いや、でも、さっきのもったいない…と未練がましく視線は先ほどのものに注がれていたが、そっちじゃダメでこっちならいい理由を懸命に考えていた。
先ほどと同じようにはめてみると、今度はするすると…というほどスムーズな手つきではなかったが、何とかはめ終えた。
ひと仕事したような気分だった琴子だったが、何かを忘れている。
「ああ、やっとはまったか」
そんなつぶやきとともに目の前で思いっきり膝を割られ、あっという間に苦労してはめたモノを入れ込まれたのだった。
「え、やっ…あん」
「初めてにしては、上手くできたじゃん」
そんな言葉を喜んでいいのか少々複雑になりながら、琴子は押し込まれたモノに翻弄される。
「つけるだけじゃなくて、排卵日を避けるとか、女のほうに入れるものとか、いろいろあるけど…」
「あっ…はぁ…」
「できる覚悟と育てる覚悟さえあれば、どれでもいいよな」
琴子を抱きしめながら告げたその言葉は、既に喘ぐだけで精一杯の琴子の耳には届いていなかったかもしれないが。
(2012/01/01)Fin