三匹の子豚…だったら




母・紀子は言いました。
「さあ、これからはみんな自分で暮らしていくのですよ。
あ、でも、いやだったらいいのよ。ずーっと、このうちにいてくれても全然かまわないのよ〜」

一番目の子豚・相原父は言いました。
「奥さん、いや、いつまでもご厄介になるわけにはいきません。新しい家でも建てて近いうちに出て行きます」

二番目の子豚・琴子は言いました。
「おばさん、寂しいけど、お世話になりました。本当に、本当に寂しいけど」

三番目の子豚・直樹は言いました。
「どうでもいいけど、新しい家には来るなよ」

三匹の子豚はこうして新しい家を作ることにしました。

一番目の子豚・相原父はわらの家を。
二番目の子豚・琴子は木の家を。
三番目の子豚・直樹はレンガの家を。

家が建ったころ、狼・金之助がやってきました。

狼・金之助は欠陥住宅のわらの家を見て言いました。
「こんなのおれの鼻息でひとっ飛びや」

わらの家は、鼻息で飛ばす前に自ら崩れてしまいました。
一番目の子豚・相原父は慌てて二番目の子豚・琴子の家へ逃げ込みました。
「もう、お父さん、建築費用ケチるからよ!」

狼・金之助は不器用そうな木の家を見て言いました。
「なんや今にも倒れそうな家やな〜。そんでもマイスイートハニー琴子の家やったら、どこでも天国やがな。こ、と、こ〜!!」

木の家は、狼・金之助が無理矢理家の中に入ろうとしたため、あっけなく崩れてしまいました。
「琴子、お前の不器用さはいったい誰に似たんだ」
「ムッ。お父さんこそもっとしっかりした家を建てていれば…」

「…で、なんで俺のところなんだ」
一番目の子豚・相原父と二番目の子豚・琴子は、三番目の子豚・直樹の家へと逃げ込むことにしたのでした。
「困ってるんだから助けてくれたっていいでしょ」
「戻ればいいーだろ!」
「何よ、血も涙もないってほんとーだったのね!」
「ま、まあ、直樹くんに迷惑かけちゃ…」
「わかったよ!入れればいいんだろ」
(ナイス!そうよ、こうでなくっちゃ!!)
「ん?なんか聞こえなかった?」
「しらねーよ!ったく、早く入れよ」

こうして、三匹の子豚は三番目の子豚・直樹の家で暮らすことになったのです。

狼・金之助はそれを見て怒って言いました。
「なんやとー!琴子が入江の家に同居やとー!」

何とかして同居をやめさせようとレンガの家を壊そうとしましたが、建てた本人と同様なかなか防御は完璧で手が出せません。

「おお、そうや。あないなところに穴が開いてるやんか。くくくっ、天才入江と言えども落ち度はどこかしらあるもんや」
…などと言いながら、狼・金之助はそろりそろり屋根に上がっていきました。

三番目の子豚・直樹は、屋根の上の不穏な気配に気づきました。

屋根に上がった狼・金之助は、ぽっかりと開いた煙突を覗き込みました。
そのときです。
「相原さ〜ん」
下から響く声に思わず足を滑らせた狼・金之助。

一方、一番目の子豚・相原父は、無防備に戸を開けました。
「おや、こりゃ奥さん、どうしました」
「大変なんですよ!」
「どうしたんで?」
「ちょっとこちらに来ていただけます?」
「はいよ。おう、琴子、ちょっと行ってくる」
「うん、わかった。行ってらっしゃい〜」
こうして一番目の子豚・相原父は、母・紀子に連れられて出て行きました。

レンガの家では二番目の子豚・琴子がのんきに言いました。
「どうしちゃったのかしらね〜」
「さあな」
そう言いながら三番目の子豚・直樹は、外へと出て行きました。

「で、どうしたんです、奥さん?」
「ふふふ、お兄ちゃんと琴子ちゃんを二人っきりにする作戦よ!」
「は?では、用事は何も?」
「今頃お兄ちゃんと琴子ちゃんはうまくやってるかしらね」
…聞いてやしない。

「くう、体力には自信があるねんけど…」
屋根にぶら下がった狼・金之助に手を差し伸べる三番目の子豚・直樹。
「よ、余計なことすんなっ」
強がりを言ったものの、すでに限界。
結局、狼・金之助は三番目の子豚・直樹の手を借りて、無事助け出されることになったのでした。
「借りにしといてやる!」
そう言いながら狼・金之助は森へと帰っていったのでした。


 * * *


がばっ。
ベッドから起き上がった琴子は、辺りを見渡した。

「あ、あれ?ここは…」

あ、そうか。入江くんの家だ。
なんだかおかしな夢見ちゃったなぁ。

あくびをしながら部屋を出ると、すでに着替えも済ませた直樹に会った。

「でけぇあくび」

カチンと来たが、とりあえず微笑んだ。

「お、おはよう、入江くん」
「ばーか、ことこ」

直樹の後ろからひょこっと顔を出した裕樹。

「お兄ちゃん、朝からこんなバカな顔見ないほうがいいよ」
「…そうだな」

そう言って去っていく入江兄弟。

ちっくしょ〜!覚えてらっしゃい、いつか…。
…そう言えば、あれって、もしかして初夢?
なんだか今年も波乱万丈になりそう…。

そんな不安を抱いた同居一年目の正月。


三匹の子豚…だったら−Fin−(2006/01/31)