a rainy day




雨、雨、雨。
今週に入ってから雨ばかり。
毎日じめじめとして張りがない。
制服はぬれるし、靴は汚れるし。
それなのに、家中でただ一人、お母さんだけはニコニコしている。
何がそんなにうれしいのか、空を見上げてはニコニコ。
雨の日には素敵な思い出があるからだと言う。

ああ、はい、はい。
小さい頃から繰り返し聞いたあの話ね。
え?なんで今その質問するわけ?
あんたバッカじゃないの。
今その話題を持ち出したら朝食の支度が遅れるじゃない。
ほら、お玉片手に語りだしちゃったわよ。
ほら、ほら、その話しだすと最後まで終わらないわよ。
やあよ、止めるの面倒だもん。
お父さんが止めるまで放っておけばいいのよ。
あ〜あ、今日は雨だって言うのに駅まで小走りで行けって感じよね。
おばあちゃんが止めてくれるかも?
…期待するだけ無駄よ。
だって、一緒になって思い出に浸っちゃってんだもの。
あ、でも、さすがにおばあちゃんの手は止まらないわね。
…っと、帰ったらビデオ鑑賞会?!
いや、ご遠慮いたします。
え、ええ。
えーと、今日は期末テストの勉強で図書館に。
あ、お母さん、味噌汁沸騰しちゃう!
ふー、やれやれ。
あ、お父さん、おはよう。
今日は遅いんだ。
えー、また出張なの?
う、うわ、またお母さんの思い出モードにスイッチが…。

もともとお母さんは家中の誰よりも幸せに満ちている。
笑ったり泣いたり喜怒哀楽の激しさは、いつでも家族を振り回す。
お父さんだけは、そんなお母さんに動じず、いつもと同じ。
一見して冷たくも感じるその素振りは、お母さんも時々不安になるらしく、よくめそめそ泣いたりしている。
そのたびにお父さんはあきれてため息をついて、お母さんに言葉を一つ二つささやく。
何言ってるのかよくわからないけど。
それだけですぐにご機嫌になるお母さんは、やっぱり単純と言わざるを得ない。
お父さんと一緒にいるときのお母さんの顔。
誰よりもお父さんがいないとだめな人。
お母さんを見るときのお父さんの顔。
お母さんがいなければ、ただの気難しい人。
何と言うか、正反対の二人。

ほら、早く行くわよ。
いつまで歯を磨いてるのよ、置いてくわよ。
雨の日の話の続き?
ほら、お母さんがお父さんにプロポーズしてもらったって言う。
うん?
そうねぇ、不思議よね。
恋人すっ飛ばして結婚だもの。
まあ、それはおばあちゃんの陰謀のせいだから気にすることないわ。
どうせそれまでだって一緒に暮らしていたんだし。
いいじゃない、今だってラブラブなんでしょ。
うわ〜、自分で言ってて鳥肌立っちゃった。
ラブラブだって〜。
ま、いいか。
なんだかんだ言っても我が家は平和だ。

「いってきま〜す」
「行ってきます」

「いってらっしゃ〜い!
二人とも気をつけてね〜!」


a rainy day −Fin−(2006.06.17)