星に願いを




もうすぐ七夕の日がやってくる。
大きな笹を用意して、飾り付けをする。
それはまるで夏のクリスマスツリーのように庭に立っている。
あとは短冊の願い事を書いてつるすだけ。

入江くんはおばさんに呼び止められて、短冊を押し付けられる。
無理やり手に持たされて、ふんと嫌そうにひらひらと短冊を振る。
そして何気に笹についている短冊を裏返して、文字を読み取る。
紛れもなく、それはあたしの短冊。

『成績が上がりますように』
『健康でいられますように』

「…無駄な願いばっかり書きやがって」
「い、いいでしょ。何書いたって!」
「おまえの場合努力もなしに成績が上がるわけないし、願わなくたって健康間違いなしだろ」

嫌味たらしく、そう言った。
本当はおばさんに短冊を3つもらったのだけど、最後の一つはどうしてもつけられずにいた。
どこかこっそりつけられる場所はないかと探している。
おばさんの命令で入江くんも3つの短冊を書くことになった。

『一人になりたい』
『静かにしてほしい』
『邪魔をしないでほしい』

「こ、これって…」

あたしは入江くんがつけた短冊を見てみたのだった。

「こ、これのどこが願い事…」

どう見てもあたしへのあてつけにしか見えないんだけど。

「ああ、俺も無駄な願い書いちゃったかな」

入江くんはにやっと笑って言った。

…く〜っ、くやしい!

風が吹いて目の前に一枚の短冊が顔に当たった。

な、何よ、短冊まであたしのことバカにしてっ。

そう思って短冊をよけると、それは…。

『入江くんとずっと一緒にいられますように』

な、なんでここに〜?!
あたしが慌てて振り返ると、入江くんは涼しい顔で言った。

「ああ、廊下に落ちてたから」
「だって、入江くん」
「どうせどれも無駄な願いなんだから、いまさら一つくらい増えたってかまわないだろ」

そう言った入江くんは、夜空を見上げている。

そうだね。
とりあえず今は、入江くんと一緒にこうして夜空を見上げることができる。

笹の葉が風に揺れる音が心地よくて、あたしは入江くんの隣でうっとりと目をつぶった。

「あ、おまえの足にカエル」
「え、うそっ」

あたしが驚いて目を開けると、庭用のサンダルの上にちょこんと乗ったアマガエル。

「い、いやーーー!!!」

あたしの悲鳴が響き渡る中、入江くんは目に涙を浮かべて笑っている。
いつもいつも意地悪な入江くんと同居3年目の夏の始まり。


星に願いを−Fin−(2006.07.05)