星に願いを2




空を見上げ、願う。
今年はいない人を想い、来年こそは、と。

「入江くん、今年はきっと短冊なんて書いていないよね」

あたしのつぶやきにお義母さんは言った。

「あら、今年も書けるようにちゃんと短冊を送っておいたわよ」
「ええっ、本当ですか」
「ちっとも送り返してこないけど」

あたしは風に揺れる短冊を見て、今頃入江くんは…と想像する。
入江くんが短冊を書くなんてよほどじゃなきゃ無理だろうけど。
病院にいるのかな。それとももうマンションに帰ったかな。
でも、もしかしたら家に帰る途中でこうして空を見上げてるかもしれない。

好美ちゃんと二人で仲良く短冊を飾る裕樹君を見ながら、入江くんがここにいたらあたしだって…と思う。
あたしの物思いとは関係なくみんな楽しそう。

神戸に行ってから本当に忙しそうな入江くん。
短冊には、入江くんが病気をしたりしませんように、と願った。
そして、早く一年が過ぎますように、って。
それから、ちゃんと看護婦になれますように、とも。

毎年、毎年、いくつもの願いが星へ届くようにとみんなが空を見上げているに違いない。
今年は本当に入江くんが彦星様で、あたしが織姫みたい。
でも、会えるのが1年に1回なんてやだな。
そんなの耐えられない!

お義母さんがスイカ食べましょうって持ってきてくれた。
そのとき、家の電話が鳴り響いた。
あたしはなんとなく走って電話に向かう。

「もしもし、入江です」
『…琴子?』
「入江くん!!」
『…にぎやかだな。
また今年も七夕祭りでもやってるのか?』
「うん。みんな来てるよ」
『ふーん』
「それでね、短冊…なんだけど、
入江くんは、書いた?」
『あのおふくろの送ってきたやつか』
「うん、そう」

「琴子〜!なくなっちゃうわよ〜!」
「えー、一つくらいは置いといてよ!」

『小児科の病棟に』
「え?」
『おまえが試験に受かるようにとでも書いておけばよかったかもな』
「書いてくれたの?」
『書かねーよ。それくらい自分で書いたんだろ』
「書いたけど、入江くんだって書いてくれたっていいじゃない」
『俺なら、もっと違うこと書くよ』
「…何を?」
『…騒がしくてもいい、邪魔をしてもいい、一人よりマシ、とか?』
「なんだか、どこかで見た気がする」

電話の向こうで入江くんが大笑いしている。

「でも、あたしがいないとやっぱり寂しいんでしょ」
『…そうかもな』
「…入江くん、会いたかったよ」
「織姫よりマシだと思って頑張れよ」
「…うん」
『休憩終わりだ、じゃあな』
「え、入江くん、待っ」

唐突に切れた電話は、きっと病院からに違いない。
あたしはしばらく受話器を持ったまま庭の笹を見た。
色とりどりの飾りに揺れる笹にもう一つぶら下げようか。

願わくば、お星さま。
来年は入江くんと過ごせますように。


(2008/07/07)