大掃除
どこの家でもある風景。年末の大掃除。
同居人数の多い入江家だが、きれい好きな母・紀子がいるために、案外きれいに保たれている。
それでも、各自要らないものをこのときとばかりに処分するようにしている。
特に書類の類が多い入江家。
どうしてこんなものを…と本人以外には全く理解不能なものを広げている相原家。
そんな喧騒の中、どうやっても今日中に終わりそうもない人が一人。
ねじりハチマキで自分の和室を掃除している相原・父。
とっくに掃除も終わってくつろいでいる直樹。
いらなくなったおもちゃをまとめて寄付でもしようかと相談している父・重樹と裕樹。
キッチンでお茶の用意をする母・紀子。
「琴子は何やってんだ」
相原・父の心配をよそに、琴子は自室で一人…にやけていた。
* * *
これは最初に買ってもらったラケット。
入江くんと特訓したり、ダブルスしたわね。
ガットが何度も切れちゃって大変だったのよねー。
ほとんど使ってなかったのに、なんでだろう。
安物買いしたせいかしら。
あ、これは入江くんが試合に勝ったときのテニスボール。
えへへ、無理矢理もらっちゃったのよね。
これは家がつぶれちゃったときに埃の中から掘り起こした生徒手帳。
入江くんの写真(もちろん隠し撮り)が入ってたから、必死で探したのよね。まさかその数時間後に本人と同居することになるなんて思わなかったけど。
これは入江くんに勉強を教えてもらったときのシャ−プペン。
これでテストを受けると、なんとなく賢くなった気がするのよね〜(あくまで気がするだけ)。
お次はっと…なんだっけ、これ。
ああ、初めて入江くんに手当てしてもらったときの絆創膏。
どうしても捨てられずにいたんだ。
そして、これが…。
* * *
琴子の周りには散らばった思い出の数々。
片付けていると言うより、広げている?
しかも、壊れたものや、汚れたものばかり。
「いつまでやってんだ」
ぎくりとして振り返ると、開けっ放しのドアから冷めた目で見つめる人影。
部屋の中を見渡して、先ほど見たときから全く進んでいない様子を悟る。
思わず大きくため息をついた直樹。
「もう、終わったの?」
「とっくに皆終わってる。ああ、お父さんはまだやってたかな」
それを聞いて引きつり笑いする琴子。
思わず血のつながりを再確認。
「なんで箱の中身ぶちまけてるんだ」
「失礼ね、ぶちまけてるんじゃないわよ。整理してるのよ」
「ふーん、ぶちまけてるようにしか見えないけど」
思わず自分の周りを見渡す。
確かに、片付けているようには見えない。
周りの品々をかき集めて箱の中に戻そうとする。
そして、もう一度触れた忘れられない一品。
薄汚れたカバン。
「ねえ、見て、入江くん。これはね…」
入江くんにプ、プロポーズしてもらったときに持ってたカバン。
雨と泥で汚れちゃったけど、捨てられないわぁ。
そう、そう、あのとき持って帰るのも忘れて、慌てて取りに戻ったんだっけ。
拾われてたり、盗られてなくてよかったぁ。
なんでそれが思い出なんだ、との突っ込みはさておき、カバンを抱きしめ、しばし思い出に浸る琴子。
「どうでもいいけど、俺の部屋でもあるんだから、夜までにちゃんと片付けてくれよ」
そう言い残してもう一度リビングへと下りていく直樹。
それから毎年、同じ光景が繰り広げられ、毎年のようにカバンの由来を聞かされ、毎年のようにプロポーズまでの経緯を再現されることになろうとは。
俺の部屋でもある…の言葉に、またもや顔がにやけて思い出に浸る琴子。
次に見つけた秘密のアルバムを思わず開く。
全く片付いていない部屋を見た直樹は、後で手伝いに行くか…と半ばあきらめ顔でそう思っていた。
今、まさか琴子があの幼少時のアルバムを広げていることは露知らず。
夜までに果たして終わるのか、大掃除。
新婚ほやほやの年末の入江家の風景でした。
大掃除−Fin−(2005.12.28)