白雪姫…だったら
ある秋の日のこと、白雪のようにかわいい女の子が生まれました。
ところが母は、不慮の事故で亡くなってしまったのです。
けなげにも白雪姫・琴子は、フグキチ王国を支える父と二人で暮らしていたのでした。
しかし、またもやそんな二人に不幸が訪れます。
フグキチ城の崩壊です。
つかの間、隣国のパンダイ王国で暮らすことになりました。
パンダイ王国には、二人の王子。
白雪姫・琴子は、兄王子・直樹に一目ぼれ。
ガッツと根性でアタックするもことごとく玉砕。
とうとう別れの日が来ても、全く動じることのない王子・直樹。
白雪姫・琴子をぜひ嫁にと思っていた后・紀子は、悲しみに打ちひしがれておりました。
魔法の鏡を手に入れた后・紀子は、鏡に尋ねます。
「鏡よ、鏡。この世で一番お兄ちゃんの嫁にふさわしいのはだあれ?」
『お后様、それは白雪姫です』
「そーよ!そうなのよ!白雪姫しかいないのよ!」
早速変装をしてフグキチ王国へと出かけました。
「そこのかわいいお嬢さん」
「え、あたし?」
当然のごとく振り返る白雪姫・琴子。
「これはね、願いのかなうりんごですよ。一口かじればあら不思議、王子様がやってきます」
「王子様〜?それって、もしかして…。っていうか、パンダイ王国のお后様、何やってるんです?」
「え、あら、いやだ、何でばれちゃったのかしら」
「でも、りんごおいしそう〜」
「本当にお兄ちゃんたら…」
「いただきまーす」
「あ、ちょっと、白雪姫、そんなに…」
がぶりとりんごを一気にほおばった白雪姫・琴子。
いくらなんでも食べすぎだろう…と后・紀子が心配したその瞬間、白雪姫・琴子はうぐっとのどにりんごを詰まらせました。
「し、しっかりして、白雪姫!」
后・紀子の呼びかけにも白雪姫・琴子は目を白黒するばかり。
とうとう失神してしまいました。
これは大変とばかりに慌てた后・紀子の前には、愛犬・チビを供に通りがかった王子・直樹の姿が…!
他国なのに通りがかったのは本当に偶然かどうかかなり怪しいが、そんなことはこの際置いておき、とにかく成り行き上白雪姫・琴子を助けることに。
「ここは、キッスよ。キッスしかないわ!」
そばで期待度満点のまなざしを向けて見守る后・紀子。
そんな后・紀子を全く無視して王子・直樹が白雪姫・琴子を抱き起こすと、おもむろに手を振り上げた。
白雪姫・琴子の背中をドスンと一発叩くと、口からポロリとりんごが落ちた。
「う、うーん」
白雪姫・琴子が目を開けると、そこには確かに王子・直樹の姿が。
「えー、本当に王子様に会えたわ!お后様、ありがとう」
「ああ〜、キッスが…。私の計画が…」
* * *
ハッ!として目が覚めると、まだ朝早いベッドの中だった。
紀子は自分の見た夢に何かが足りないと思った。
「そうよ、キスよ!」
いや、七人の小人だろう…。
そんな数多の突っ込みはともかく、幸せそうに眠る夫を揺り起こした。
「これで琴子ちゃんが戻ってくるわ〜!!」
「う〜ん、ママ、もう少し寝かせてくれよ…」
「何言ってるの、パパ!早速建築事務所に連絡を取って、今こそあの計画を実行するときが来たのよ!ふふふ、夢の三世帯同居よ」
だって、お兄ちゃんと琴子ちゃんはキスをしたのよね。
卒業式の夜に。
まあ〜、本当に。
黙ってるなんて水くさいわ、琴子ちゃんたら。
「さ〜、忙しくなるわよ〜!!」
「う〜ん、まだ早いよ、ママ…」
母・紀子が琴子と直樹のキスの事実を知った翌日、こうして入江家三世帯同居計画は日の目を見ることになったのでありました。
白雪姫…だったら−Fin−(2006.03.02)