噂6




その噂は、決して二人に…特に入江直樹の耳には入れられない話だった。

「…ねえ、入江くんて、誰かと付き合ってたとかいう話聞いたことある?」
「…入江くんて、あのA組だった?」
「そう、そう、相原さんと婚約したとかいう」
「…あれ?結婚したんじゃなかったっけ?」
「そうだっけ。ま、どっちでもいいんじゃない?」
「で、付き合ってるとかいう話だっけ」
「うん」
「…だって、ラブレターはことごとく突っ返されるし、告白した子は全部ふられて…」
「そうよねぇ」
「他の学校にいるとか…」
「聞いたこともないわよ」
「クラブもやらないし、行くのは本屋に図書館くらいで、遊びに行くわけでもないし、誰かと歩いてるとか言う話も聞いたことなかったけど?」
「…詳しいわね」
「え?あはは、ちょ、ちょっとね」
「それがどうかしたの?」
「うーん、それがねぇ…」
「もったいぶらないでよ」
「入江くんが経験済みかどうかって話」
「何それーーー?!」
「えー、相原さんじゃないの?」
「だ、だから、聞いてるんでしょ」
「だって、硬派でしょ」
「硬派だからって初めてとは限らないでしょ」
「初めてって…あの入江くんがへたくそとか考えたこともないわね」
「や、やっだ、やめてよぉ」
「だって、ねぇ?」
「ちょっとぉ、イメージ最悪〜〜」
「えー、なんで初めてじゃダメなのよぉ」
「だって、入江くんよ?」
「だから?」
「想像できる?へたくそな入江くん」
「え〜〜、やだ〜〜〜」
「しかも入江くんて、デートすらまともにしたことないって」
「あれ?どこかの社長令嬢は?」
「ああ、そうか、そんなのもいたわね」
「でも、お嬢様に手出しはやばいでしょ」
「あら、いまどきお嬢様の方がすれてるって」
「どうでもいいけど、つまり、入江くんは相原さんが初めてってこと?」
「そうなのかしら?」
「あ、でも、テニス部の先輩に聞いたことあるけど…」
「なになに?」
「うーん、入江くん、どうもとっかえひっかえだったんじゃないかって」
「そ、それもギャップのある話よね」
「でも陰では…って?」
「年上に手ほどき受けてそう」
「きゃー、それもありえそう」
「わかんないわよぉ。逆に年上が入れ込んじゃってたり」
「マダムとか手玉に取ったり、キャリアウーマンとか?」
「それもありえるかも〜〜」

そこへ通りかかる長身の彼。

「…かっこいいわよねえ、相変わらず」
「…何であれが相原さんの、なんだろう」
「やっぱ同居は大きいわよね」
「…相原さんが迫ったとか」
「えっ、相原さんが実は手ほどき?」
「ま、まさか〜〜〜」

一同顔を見合わせる。

「でも、そうならそうで…」
「それも笑える〜〜〜〜!」

きゃーきゃーとあまりにも騒がしい女たちの横を通り過ぎながら、入江直樹は冷めた目で見やる。

そんな直樹を見て、また急にくすくすと笑い出す女たち。

直樹はわけがわからないまま、その場を通り過ぎる。

…が、しばらく女子学生の間では、童貞入江直樹説とやりまくり裏伝説で大いに盛り上がったと言う。
そして、その真相は誰も知らない。


噂6−Fin−(2007/05/15)