噂7




何だかんだと言いつつ入江直樹と結婚した琴子。
それをうらやましく思わない者はいないとまで言われる。
斗南大学だけでなく、他の大学にまで名も知れ渡っている夫婦…らしい。
その噂のほとんどはなぜあの入江直樹が琴子と結婚したか、という疑問が付きまとうらしい。
身近に見ても入江直樹のクールさは多分理解できまい。
それでも身近にいないと彼らがどれだけバカップルなのかもわかるまい。

カフェの一角で買い物に疲れた面々が、ケーキを選んでショーケースの前でうろうろしている琴子を尻目に話し出した。

「入江さんていいように琴子を扱ってるわよね」

先ほど偶然出会った直樹が、琴子と目が合ったにもかかわらずそのままスルーして歩いていったと琴子がわめいていたのを品川真里奈は思い出した。

「…琴子に振り回されてる、の間違いじゃないの?」

自分の買ったものを検分しつつ、桔梗幹は言った。

「て言うか、恋人だった期間あるわけ?あたし、そんなの嫌だなー」
「ま、即結婚って、普通の男ならひくわよね」
「…その点入江さんは普通の男じゃないから」

にっこりしながらジュースを飲んで小倉智子は言った。
琴子はいまだショーケースの前でのぞき込んだり背伸びしたりとケーキを選びかねている様子だった。
そんな姿を見てから、少し声を潜めて真里奈は言った。

「よく考えたら恋人期間がなかったってことは、お互い気持ちを確かめ合って即初夜ってこと?」
「…そうね、考えたら凄いわよね」
「おまけに琴子って絶対初めてよね」
「…結婚するって言ってから2週間だっけ?」
「そんな感じって言ってたわよね」
「その2週間って、早いの?遅いの?」
「…会ったその日にっていう人もいるわけだし」
「あの二人にしたら、早い…のかしらねぇ」
「でもその前に3年はうだうだやってんだから、早くもないでしょ」

そこへ戻ってきた琴子。

「もう、迷っちゃって、結局チョコレートにしちゃった」

のん気な琴子の言葉に、幹は買い物袋をどさっと置いてため息をついた。

「何だかんだと言ったって、結婚したもの勝ちよね」
「2週間か…」

真里奈の唸り声に琴子は首を傾げる。

この後しばらく、2週間は早いか遅いか、大学を挙げて論争になるとは、この場の面々も琴子も、ましてや直樹も、誰も想像つかなかった。
後に斗南大学2週間論争と語られることとなった。


噂7(2008/06/23)−Fin−