噂9
それは誰もが苦しむ受験の季節。
まことしやかに噂される伝説の男の話。
その日の彼は、呪いのお守りをつけていたという。
何ゆえ受験の日に呪いのお守りなのか。
一説にはあまりにも簡単すぎる試験に飽きた彼は、あえて不可能に挑戦することにしたという。
朝から風邪をひいているのに、天気は大雪。
電車は遅れ、時間はぎりぎり。
恐ろしいことに、呪いのお守りは彼を電車に縛り付けた。
やっとのことで試験会場に着いた彼は、階段を転げ落ち、使おうとした筆記用具は使用不能。
それでも何とか試験が始まったが、風邪のために意識は朦朧。
もはや彼の運命はこれまでかと思われた。
…が、彼は呪いに勝ったのだ!
なんと試験はトップで通過。
彼は呪いのお守りにも打ち勝ち、かわいらしい女神をも手に入れた。
「えーーー、うっそで〜〜」
「嘘じゃねぇって」
「誰が信じるんだよ、そんな話」
「いや、本当だって」
「ただの運の悪い人じゃないのかよ」
「運が悪けりゃトップで通過なんてありえないだろ」
「あ、そうか」
「だーかーらー、俺の一番上の姉貴の男の話だから、間違いねぇって。弁護士だから嘘もつかないだろうし」
「そのお前の姉ちゃんの男が何でそんな話知ってるんだよ」
「んー、その伝説の男と同じ学校だったとか」
「どこの学校だよ、それ」
「斗南だよ、斗南」
「げっ、俺たちが受けるところじゃん」
「そう、そう。なんか、その学校、そういう伝説みたいなのがいっぱいあるんだってさ」
「その伝説の男ってのもいるのかな」
「いや、もういねぇだろ。何年前の話だと思ってんだよ」
「でも、ちょっと楽しみになってきたな」
「…そうだな」
「じゃ、行くか。その伝説のある学校とやらに」
「おう!」
受験生諸君よ、頑張れ。
君の前に道は拓ける。
噂9(2009/02/25)−Fin−