この話は、台風Girlの中でモトちゃんがデートしてるのでは?と言った前夜の話、その1です。
琴子はいつも無駄な努力をする。
もっとうまい方法はいくつもあるのに、常にまっすぐな方しか向かない。
試験や宿題なら、いくらでも楽をしようとするのに、人に対して逃げたことがない。
それで自分が傷ついても、決して人のせいにしない。
琴子は、バカだ。
それはわかっている。
でも、この俺を動かすのはいつも琴子以外にはない。
多分、どんなにスタイルのいい女が裸で目の前を歩いても、俺にとっては琴子でない限り、ただの女だ。
きれいな女はきれいだと思うが、それはただのきれいな女であって、それ以外のなんでもない。
どうでもいい女にくっつかれればうっとおしいだけで、完全に無視することも出来る。
世間的にあまり問題になりそうなことは、とりあえず避けるすべは手に入れたが。
頭のいい女は好きだ。
わずらわしいことをしないから。
俺を困らせるようなことはしないから、そのままかかわらずに生きていける。
琴子はバカだから、俺には考え付かないようなことを平気で起こす。
俺はそれを無視できない。
姿が見えなければ、俺のいないところでどんな問題を起こすかと気が知れない。
姿が見えれば、目の前で何を起こすかと目が離せない。
琴子はバカだから、俺がそう思っていることに気がつかない。
気がつかないから、俺は今までどおりの冷徹を装った人間でいられるのかもしれない。
琴子をからかうのは面白い。
何度抱いても、あせってどもる。
「いじわる」と悔しそうに言う。
それを聞くと、なぜか俺は満足して琴子にキスをする。
琴子の「いじわる」は、好きの裏返しだと気づいたときから、俺はわざと琴子をからかっている。
毎日ストレートに「好き」の言葉を聞いていても、まだ足りないのか?
「いじわる」「すき」「いじわる」「すき」
琴子が俺を嫌うことなんてありえないと知っている。
「入江くん、好きだからね」
そんなことは知ってる。
俺以外のやつを好きになれないことも。
そんなに弱みを見せて、ホント、バカなやつ。
* * *
明日は入江くんもお休み。
絶対、デートしてもらうんだ。
最近夜勤と当直ですれ違いばかり。
入江くんは、毎日会ってるだろ、と言う。
一緒にご飯を食べたり、一緒に話をするのもいいけど、一緒に出かけて普通の恋人のようにデートがしたい。
実はそう言って何回も一緒に出かけてもらったことはあるけど、なぜかうまくいかない。
入江くんは病院から呼び出されることも多いし、それでなくても他の先生に頼りにされていて相談の電話もしょっちゅうかかってくる。
入江くんが凄いお医者様で、それはとても自慢でうれしいのだけど、休日くらいは、入江くんにのんびりしてもらいたい。
でも、そのうちの何回に1回でいいから、デートもしてほしい。
ねえ、気づいてる?
あたしは入江くんと一緒にいられるだけでとても幸せだけど、もっともっと一緒にいたいの。
ずっと見ていたいの。
抱きしめてほしいし、キスもしてほしい。
やさしい言葉なんかなくたっていい。
笑って「ばーか」って言われても、その微笑みにくらくらしてること。
でも、何年かに1回でもいいから、「好き」と言ってほしい。
ねえ、知ってるでしょう?
あたしが、入江くんを大大大好きだってこと。
これからもずっと好きでいること。
いつだって、口にしてる。
入江くんが迷惑そうな顔してたって気にしないの。
本当はあたしのこと好きだよね?
だから、デート、しようよ。
最後には結局あたしの言うことをしぶしぶ聞いてくれる入江くんが、最高に大好きだよ。
デート前夜 独り言−Fin− (2004.9.29)