each tomorrow
「入江?外来に行ったと思うけど?」
「え?入江先生?助手が足りないとかで呼ばれて手術室の方へ行ったわよ」
「ええ、手術が終わってから、先ほど教授に呼ばれて…」
「入江?教授のところでは見てないなー。食堂じゃないの?」
「入江先生なんて見てないわよ。お昼ごはんもまだじゃないかしら?」
「ああ、入江先生なら先ほど外科病棟のほうで見かけたわ。
何、おなかすいてるの?一緒に食べていく?」
「何やってんの、琴子。帰ったんじゃなかったの?
え?入江先生?カルテ見てたけど…。患者さんのところじゃないの?」
「おや、琴子ちゃん、仕事終わったんじゃ…。
うん?入江先生なら、たった今出ていかれたけど?」
「あ、琴子!今、入江先生が…。
止めたんだけど、忙しいからって行っちゃったわ」
「やあ、琴子ちゃん。ん?まだ入江捜してるの?
それより、今から僕と…。あ、ちょっと」
「あら、入江さん。入江先生は今、検査室だと思うわ」
「入江先生ですか?入江先生〜!え?
…もう終わって、病棟に戻られたそうです」
「さあ、小児科のほうはもう用事ないみたいだから、外科じゃないかしら」
「琴子、あんたやつれてるわよ。何、まだ会えないの?」
「入江先生なら、先ほど西垣先生と一緒にいましたよ」
「琴子ちゃん…。入江のやつ、先ほど帰ったよ」
「あ、琴子〜〜〜!!」
「お帰りなさい、琴子ちゃん。お兄ちゃんなら、帰ってるわよ。
それより、今日夜勤明けじゃなかったの?」
「何だよ、騒がしいな、琴子。もっと静かにドア閉めろよ。勉強の邪魔だよ」
「…凄い顔してるな、お前…」
「い、入江く〜〜〜ん」
「そんなところで座り込むなよ」
「だって、だって、入江くん、捜してたのに、いなくって…」
「ああ。あちこちで聞いたぞ、お前の話」
「ずっと捜してたのに、いないんだもん」
「夜勤明けなんだから、家で待ってればよかっただろ」
「…だって、なんか怒ってたみたいだったから」
「怒ってねーよ」
「わざと避けてなかった?」
「…さあ?忙しかったんだよ」
「うっ、うっ、会いたかったよーーー!」
「…泣くと余計に顔がはれるぞ」
「えっ」
「ふ〜ん、そんなに捜して、何が言いたかったわけ?」
「え…と、だから…」
「ま、俺は『入江くん』でもかまわねーけど」
「あ、だから、それは…。よ、呼んでないもん」
「呼んでみろよ、返事してやるから」
「ええっっ」
「ほら。下向くなよ」
「………き」
「聞こえねーな」
「〜〜〜〜な、な、なおき」
「はい?」
「あ…。い、入江くん…。大好き…」
「…!!…おふくろっ、ビデオまわすなよっ!!」
「あ〜ん、だって、琴子ちゃんがかわいいんですもの」
「いちいち夫婦の会話とってんじゃねえ!」
「…入江くん」
「…お兄ちゃん、気の毒…」
「樋口!」
「…松永」
「見舞い、遅くなって悪かったよ」
「いや、来られても動けなかったし」
「うん、先生に聞いた。明日退院だって?」
「まあな」
「俺、本当は早く来たかったんだけど、宿題残っててさ」
「…ふ〜ん」
「全部終わった?樋口は頭いいから終わったよな」
「何、写したいの?」
「イヤー、そこまで言ってないけど、貸してくれるの?」
「いいけど」
「え、俺、迷惑?迷惑なら言ってくれよ。
この間の試合もさー、俺余計なこと言ってプレッシャーかけたんじゃないかと思って」
「いや、俺のほうこそ悪かったな。決勝出られなくて」
「いいよ、樋口のせいじゃないよ。もともと樋口いなかったら、1勝もできなかったろうし、悔しいけど」
「…いや、試合、出たかっただろ?」
「え?俺、最後のロスタイムに出してもらってさ〜」
「は?」
「そうそう、ぜんぜんへたくそだったんだけど」
「…出たのか」
「うん。あれ、知らなかった?」
「くくくくっ」
「お?樋口が笑うなんて珍しいな」
「何だ、俺…」
「どうした?あ、何、気にしてくれてたんだ」
「俺、バッカみてー」
「?樋口は頭いいだろ?」
「いや、お前、普通に返すなよ。
俺って…」
「何言ってるの?」
「ああ、大丈夫」
「そう」
「俺の穴、ふさがったみたい」
「え?ああ、病気のこと」
「こんな簡単なことだったんだ」
「簡単じゃないだろ、大変だったんだろ?」
「うん、まあ。俺、生きててよかったかも」
「当たり前じゃん。
俺、樋口が倒れたとき、ついていこうかと思ったんだけど、あんなに樋口が一所懸命がんばってくれた試合、俺がかわりにちゃんと見届けなきゃって思って」
「…俺、サッカーやめてもお前とは友達でいたいな」
「て、照れるな〜、樋口に言われると。俺みたいなバカでもよければ。
って、俺、もう友達のつもりでいたけど、ずうずうしかったかな?」
「なんか、欠けた部分、埋まったみたいだ…」
「難しいこと言われてもわかんねーよ。
それより、サッカーやめちまうの??」
「…考えとく」
「坂下さん、おめでとう!!」
「お世話になりました、桔梗さん」
「やあね、元気になっただけでうれしいのよ〜。
あら、ご両親は?会計?」
「ええ。入江さんは?」
「琴子は休みよ。入江先生も休みなのよね〜。は〜、どうせ二人でデートでもしてるのよ、きっと」
「…仲いいんですね〜」
「そうねぇ。周りがどう言おうと、案外バカップルだと思うわ〜。
やだ、あたしったら、入江先生のことバカだなんて…!」
「うふふ。入江先生ってもてるんですね」
「そりゃそーよ。あんないい男めったにいるもんじゃないわ」
「いい男か…」
「…坂下さんも、いるじゃない、いい男」
「え、私は」
「…ほら」
「え?」
「それじゃあ、あたしお邪魔だから…」
「…うそ」
「…退院、おめでとう」
「…なんで?」
「ずっと、一緒にいたいと思ったから…じゃだめなの?」
「だって、ご両親は…」
「押し切った」
「え、でも…」
「同情じゃなくて、僕には君が必要だから」
「私…?」
「君は、僕のこと必要じゃないの?」
「…必要だけど、だけど…」
「一人でつらい手術受けさせてゴメン」
「…ううん…」
「もし、…君がもし、再発して死ぬようなことになっても、今度は逃げないから」
「…うん」
「だから、一緒にいよう」
「…はい」
each tommorow −Fin− (2004.9.18)