イタkiss祭り2021拍手企画



ドクターNと夢の世界15


先日から人がよく出入りする医務室。
別にいつもではないらしい。
強いて言うならば、僕の当番の時だけらしい。
もっと言うなら、半ば公然とやり取りされている物がある。
多分一部の方々に見つかれば即刻取り上げられるであろう代物だ。
そして、別に僕は黙認しているわけではない。

「あのさ、いい加減にここでやり取りするのやめようよ。
いくら僕が寛大でもちょっとひどいんじゃないかな。
そのうち目を付けられるかもしれないしさ」

僕の忠告に侍女がにこりと微笑んだ。

「なんのお話でしょう」
「いま、ここで、やり取りしてたでしょうが」
「まあ、ガッキー男爵様。たいていのことには目をつぶる、という貴方様の信条に反する物言いでございますわね」
「そんな信条、ぺっだよ!今すぐ捨ててやる」
「あらあら、そんな子どもじみたことをおっしゃるのですね」

何言っても聞く耳持たない。
侍女たちの集まり、別名薔薇の会は、今城内で密やかに発足して密やかに会合が行われ密やかに物が閲覧されている。

「それが何でここ、なんだよ」
「別にここだけではありませんわ」
「認めたね?」
「何をおっしゃってるのかわかりませんわ」
「とにかく僕は反対だからね」
「その手の表向きの立場は一応尊重いたしますわ」

何でそんな上から目線なんだ。
もういいや…。

「ところで君は新年会には出席しなくていいのかい」
「もちろん出ますわ」
「へーーーー、誰と?」
「ひどい言いようですこと。私にだって婚約者くらい…」
「いるんだ!知らなかった!」
「いましたわよ」
「…へ?いました?ということは?」
「何かの話に感化されたのか、急に真の愛に目覚めたんだととかぬかしやがりまして」
「うん、うん」
「同僚と愛の逃避行をされました」
「…同僚…と…。それは気の毒な」
「ええ。よりによってなんであんな下っ端騎士風情に」
「え、ちょっと、聞き捨てならないことを」
「声を大にして言いますわ。相手は同僚のかわいい後輩騎士でしたわ」
「婚約者は間違いなく男だったよね?」
「ええ」
「相手は?」
「立派な男でしたよ」
「それ、男に負けたとかなんとかいろいろ言われ…」
「だから、ここの勤めなんですが」
「ちょ、ここ、そんなに待遇悪くないよね?ここが閑職なのは否定できないけど」
「結果的にはありがたい職場となっておりますが、世間一般的には医療所勤めは、結婚前の子女には人気のないものでございますよ」
「そ、そうなんだ」
「患者の世話というのは基本下の人間が行うものと思っている方々が多うございますから」
「で、話は戻るけど、誰と出るの?」
「ちっ」
「え、今舌打ちした?ええっ」

 * * *

ガバリと起き上がると、枕の横に置いた携帯が鳴っていた。

「はい、外科当直室」

術後の患者の血圧が下がってるから早く来いという容赦のない電話だった。
急いで白衣を着て当直室を飛び出す。
電話をしてきた声が、先程まで見ていた夢の声と重なる。
まさかね。
頭の隅では連絡のあった患者の行うべき処置のあれこれを頭に思い浮かべていたが、ちょっとだけ夢の話も気になっていた。
必ずしも次の夢で、今回見た夢の続きが見られるとは限らないからだ。
同僚の後輩騎士との逃避行の結末が気になる。
だからその悔しさをぶつけるように薔薇の会を立ち上げたのだろうか、とか。
そして新年会のパートナーはどうするんだろうとか。
ちなみに僕も新年会に出るんだろうか、とか。
出るならやはり相手は婚約者となるんだろうけど、
ああ、まずいな。
僕も眠りに捕らわれすぎると、いつか眠りから目覚めなくなるんじゃないか。
前々からそんな危ない予感もしているのだけど、夢を見るのも毎日ではないから何とかなっているのだろう。
あの舌打ち侍女がマユミちゃんかと思ったが、町娘とか言ってたし、今ようやく看護の道へ進んだところとか言ってたし、男にフラれて自棄になってる女性がゴロゴロしてる異世界って結構やばいところなんじゃ…。
僕の場合は婚約者の女性のほうにフラれそうなんだけど。
現実と夢の世界とリンクしているようでちょっと違う世界。
誰しも必ずしも幸せになるとは限らないんだよな。

おおっと、そんなことより今の患者だ。
僕は外科病棟のナースステーションに飛び込んだ。

(2025/10/29))

To be continued.