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琴子6.6
勢いで握っちゃった…。
自分ばかりいかされちゃったのが悔しくて、ちょっとは入江くんも…と思って握ったのに、握った後どうしたらいいのか先が続かない。
入江くんは言葉に出さなかったけど、口は絶対「バーカ」って言ってた。
よ、ようし、見てなさいよ。
ちょっとは慌ててみればいいのよ。
あたしは握ったまま手でさすってみた。
…これって、さすったらどうなるの?
よく考えたらあたし、入江くんのこれってあまり見たことない。
それどころかほとんど触ったことない。
ううん、触ったことあるけど、ここまでしっかりと握ったことなんてほとんどない。
普通触るものなのかしら。
でも、いつもそんな余裕なんか全然なくて、今だってホントは余裕なんてないけど。
だっていつもあたしばっかり気持ちいいばかりで、それってどうなの?
理美たちが言ってたのって、どうだったかな。
あまり真剣に聞いてなかったんだよね。
あのときは自分に関係ないかなって。
もう少しちゃんと聞いておけばよかった。
看護科の授業でもここまでは教えてくれないしな〜。
男の患者さんの見ても何ともないけど。
そもそもこんなに大きくなかった。
剃毛のときに大きくなっちゃったっていう話も聞いたことあるけど、あたしのときって患者さんてばいつも怖がってて、それどころじゃない気が…。
うん、どっちかって言うと縮こまっていたような…。
何でこんなのが入っちゃうのかな…。
い、いやそんなことで感心してる場合じゃなかった。
この状況でこんなバカなこと考えてるってわかったら、絶対笑われる。
そうよ、なんか違う。
もっと、こう…。
直樹6.6
なにやら難しい顔をしてさすってくる。
いったい何を考えてるんだか。
これはこれで気持ちがいいのは確かだが、もう少し違う表情が見たい。
その顔を持ち上げてキスを繰り返す。
手は握ったまま止まってしまう。
それもつまらないので、もう一度ささやく。
「それで、どうするんだ?」
途端に離す手のひら。
「なんだ。気持ちよかったのに」
「…え?ほんとに?」
…単純。
でももう一度握ろうとはしない。
「もう終わりなわけ?」
「も、もう終わりっ」
「俺はまだなんだけど」
「で、でも」
「ほら」
もちろんあまり期待はしない。
琴子だから、な。
それに俺が最初に願ったわけじゃないんだし。
そう、今日の琴子は珍しい。
起き上がった俺につられるようにして、琴子も向き合って座る。
「ねえ、触ると、入江くんも気持ちいい?」
「まあな」
「そうなんだ」
感心したように言う。
…何年抱き合ってると思ってるんだ。
「へー、看護科で習わなかった?」
「……な、習ったかな…?」
「冗談だよ」
「もう!」と頬を膨らませる。
いろんな表情を見せるその顔が見たかった。
「来いよ」
手を差し伸べる。
触ろうが触るまいが、欲望は変わらない。
琴子6.7
差し伸べられた手に誘われて、あたしはまた身体を預けに行く。
触られるたびに熱くなる身体。
入江くんも同じなんだってこと、ようやく理解できた気がする。
離れていた間の体温が徐々に戻ってくる。
お互いに触れて、見つめ合って、気持ちよくなれること。
幸せなあたしの身体。
幸せなあたしたち。
今度はもう少し違う気持ちで入江くんに触れる。
あたしが触れるだけで気持ちがいいのなら、それだけで幸せ。
キスの合間の吐息さえ、全部閉じ込めてしまっておきたい。
「言っただろ。今日は泣くほど抱いてやるって」
入江くんに触れていた手をとられ、
思ったよりも荒々しく押し倒された。
でも、あたしも変だったの。
入江くんに触れているだけなのに、何だかとても身体が熱くなってきたから。
直樹6.7
お互い向き合って抱きしめる。
琴子の手が俺の背中を撫でる。
頬を手で挟み、瞳を覗き込む。
唯一琴子だけが、俺の身体を熱くさせる。
琴子の手は今度は恐る恐る俺に触れる。
欲望の塊のそれを手で包み込む。
触っているのは琴子のほうなのに、上気した顔で俺を見つめている。
琴子の目が訴える。
自分だけを見つめて、触って、そして抱いて欲しいと。
先ほど琴子がつけた印が赤くうずきだす。
俺はそれほど我慢強くもないぞ?
どうするんだ、神戸へ行ったら。
琴子の両手を奪って握り締め、ベッドへと押し付ける。
琴子に翻弄されるのも悪くはないが、俺はこっちの方が好みなんだよ。
琴子を見下ろして腰をひきつける。
念のため確かめると、その泉はあふれんばかりで、無意識で俺を誘っているかのようだ。
その誘いに乗って、ためらうことなく入っていった。
琴子6.8
入江くんの顔が切なげで、苦しそうだったから、あたしは入江くんの頭を抱きしめた。
あたしはどこにも行かないでここで待ってる。
入江くんが帰ってくるのを待ってる。
いつも抱かれるばかりでわからなかったけど、抱きしめるって、自分も気持ちがいいんだってこと。
中に入ってきた入江くんは容赦がない。
ずっと焦らされ続けた身体は、溶けそうになる。
どうしてこういう時って何も考えられなくなるんだろう。
本当はもっと伝えたいことがある。
口に出して言ってない言葉もたくさんある。
それなのに、身体の方に引きずられて、口から出るのは意味のない吐息ばかり。
どんどん自分の身体が入江くんに溶けていくようで。
うん、このまま入江くんに溶けてしまいたい。
そうしたら…一緒について行けるのに。
…涙がこぼれた。
直樹6.8
言葉にしない言葉。
言葉にならない言葉。
本当はもっと言っておきたい言葉があった。
それでも、頭で考えるのはもうやめた。
琴子は絶え間なく声をあげ、俺は何度も突き上げる。
途中で琴子がいってしまっても、それでも離さなかった。
泣くほど抱くと約束したから。
寂しさを覚えて泣いてしまったのは数に入れない。
泣くほどの快感を。
泣くほどの愛しさを。
二人でリズムを刻んで、二人して溶ける様に身体をあわせながら、それでも離れければならないときがやってくる。
欲望がはじけても、そのまま離したくはなかった。
琴子6.9
入江くんに与えられる快感は、嫌じゃないってこと、ちゃんと伝わったかなぁ。
あたしだって入江くんに抱かれたいって思うこともあるし、そう思うことって変じゃないよね。
結局本当に泣くほど入江くんに求められて、それでもあたし、泣くほど喜んでしまった。
もう思い返したくないほど恥ずかしいのに、思い出したくなるほどうれしいの。
入江くんにしがみついて、あたしは眠りに落ちた。
どうか今だけは、幸せな夢を。
入江くんがどこにも行かないでいてくれたなら、…もっとうれしいのに。
直樹6.9
最後の方は琴子も半分うとうととしていた。
だから、すぐに眠りについても不思議じゃない。
その細い身体を酷使したのだから。
それなのに、どうしてもこうも女の身体はしなやかなのだろう。
男の欲望をぶつけてもまだ包み込んでしまえるしなやかさ。
好きだとか、愛してるだとか、そんな言葉で表せるなら、いくら言っても構わない。
この身体の愛しさはどうやったら伝わるのだろう。
だから俺はいつも抱きしめる。
その身体を慈しむためだけに滑らかな肌を愛し、潤う泉を飲み干し、自分の全てを注ぎ込む。
愛してるとささやけば、腕の中の愛しき身体はむにゃむにゃと答える。
明日また泣いても、抱きしめてやれないから。
今日だけは。
どんなに甘いセリフもどんなにくさいセリフでも言ってのけよう。
離れても愛してる。
お前のいない場所がどんなに寂しいとわかっていても、それでも見送ってくれる
世界の何よりも愛しき君へ。
Start in my bed−Fin−(2006/11/23)