とある地の果てで、黒き影が降り立った。
影はどんどん周囲を飲み込み、
やがてひとつの町を覆いつくした
第一章 全ての始まり
1.アイハラの町
「ああ、よく寝た!」
コトリンは勢いよく起き上がって、元気に父にあいさつをした。
「お父さん、おはよう!」
「おはよう、コトリン。今日はホクエイ城に行く大事な日だ。
準備はできているだろうね?」
「はい、お父さん」
「これで亡くなった母さんも喜んでくれるだろう」
〔装備を見る〕
布の服・ひのきの棒・薬草
〔ステータスを見る〕
レベル1
覚えた呪文:なし
特技:根性
体力:ほどほどにある
知力:微妙にバカ
運:思ったよりもまあまあいい
〈引き出しを開ける〉
お金を50yen見つけた
50yenを手に入れた
コトリンが家の外に出ると、町にはいろいろな人が行きかっていた。
「おはよう、コトリン」
友だちのジーンだ。
「今日からホクエイ城で修行だね。
でも、ホクエイ城へ行く道にモンスターが出るから気をつけてね」
「おはよう、コトリン」
友だちのサトミーだ。
「ホクエイ城には今日はいろいろな人が来るんだってね」
コトリンは町の外へ出て、早速ホクエイ城へ向かうことにした。
2.ホクエイ城へ
コトリンはいつか立派な魔法使いになりたいと考えていた。
亡くなった母も同じように思っていたが、志半ばの中で病に倒れたのだった。
父は大変悲しみ、とある城で料理人をしていたのをやめて、アイハラの町に移ってきたのだった。
今日はホクエイ城で魔法使いの弟子を決める催しがあるらしい。
そこで張り切って出かけることにしたのだった。
街道を歩いていると、突然草むらからモンスターが飛び出してきた。
「きゃー、いやー!!」
〈モンスターと戦う〉
ヒノキの棒で闇雲に叩いた
モンスターは倒れた
コトリンはレベルが上がった
レベル2になった
「もう、いやになっちゃう」
コトリンは文句を言いながらも先を急ぐことにした。
魔法使いの先生がかっこいい人だったらどうしよう〜。
要らぬ心配をしながら歩いているうちにあっという間にホクエイ城に着いた。
ホクエイ城の城下町に入るとにぎやかな通りが城まで続いている。
コトリンはあちこちのぞきながら歩いていった。
「あのパンおいしそう」
買おうかどうしようか随分迷った。
何せお金は50yenしかなく、パンは25yenだ。
道の真ん中で急に立ち止まったので、誰かにぶつかった。
「…邪魔だ、どけよ」
冷たくそう言われてコトリンは振り返る。
振り返ったそこには素晴らしくかっこいい男が立っていたが、文句を言われたので黙って道を譲った。
さすがホクエイ城、歩く人までかっこいい。
コトリンをひとにらみして去っていく男の後姿を見送って、コトリンは決心した。
あたし、絶対恋人を見つけるわ!!
ホクエイ城に来た目的とは違う決心をしたところで、とりあえず腹ごしらえをすることにした。
「おじさん、そのパンちょうだい!」
コトリンの大きな声が響き渡った。
ところが持ってきたはずの財布がない。
「ど、泥棒?!」
思い当たることはただひとつ。
しかも思い当たるのは先ほどのかっこいい人。
ぶつかった瞬間に財布を盗ったんだわ。
かっこよかったのになんて人!
「や、やっぱりいいです…」
コトリンのお腹は盛大に鳴り響いたまま、ホクエイ城へと足を踏み入れることになった。
3.ホクエイ城にて
ホクエイ城に入ると、受付を済ませてくださいと案内係に言われた。
ところが…。
受付って…どこ〜〜〜?
城の奥深く、誰も来ないような場所で、コトリンは迷子になっていた…。
部屋だと思っていたのに、開ける扉はどこかへ通じる扉。
いくつかの扉を過ぎ、コトリンは小さな裏庭にたどり着いた。
ここは、どこっ?!
誰もいないどころか、のんびりとした雰囲気漂う知る人ぞ知る隠れ場所。
仕方がないのでコトリンはその場に腰を下ろして空を眺める。
「いい天気だなぁ」
しかしいつまでもここにいても仕方がないので、そろそろまた城の中を探索しようかと思ったときだった。
背後に人の気配。
ひっ!
思わず大きな声を出すところだった。
大きな影は不機嫌そうにコトリンを見下ろした。
その顔に見覚えが…。
「あーーー!あたしの財布返しなさいよっ」
思わず飛びついて身体を覆っているマントにしがみつく。
「財布?」
「そうよ、財布よ。あたしにぶつかったときに盗んだでしょ」
素晴らしくきれいな顔を嫌そうにゆがめて、その男は言った。
「ぶつかってきたのはおまえで、俺じゃない。
財布を盗ったのは、俺にぶつかる前にすれ違った子どもだ」
それだけ言って、しがみつかれた手を振り払った。
コトリンは言われたことを反芻する。
そう言えば、この人にぶつかる前に子どもがあたしのそばをすり抜けて行ったっけ…。
そうよね、こんなにかっこいい人が泥棒なわけないわよね。
コトリンはしばらくその男を見つめて考える。
でも、結局あたしのお金は戻らないじゃない…。
それに、知ってたのなら、どうして止めてくれないのかしら。
「ちょっと!財布が盗まれたのがわかったなら、追いかけて捕まえるのが親切ってもんでしょ」
「盗まれる方がとろいんだよ。あんなみえみえの手に引っかかるなんて、バカだって言ってるようなもんだ。
だからあそこのパン屋に25yenも吹っかけられるんだよ」
「ふ、吹っかけられるって…。じゃあ、本当はいくらだっていうのよ」
「いくらうまそうなパンでも25yenもするわけないだろ。
俺が買うときには5yenだ」
…5倍じゃないのよ。
あのオヤジ〜〜〜。
今度会ったら絶対訴えてやる。
コトリンが怒りに震えている間に、男はさっさとまたドアから出て行こうとしていた。
コトリンは慌ててそのマントの後ろをつかむ。
「離せよっ」
「何で行っちゃうの?!」
「一人で休憩したかったんだよ。バカな先客がいるんじゃ休めないだろ」
「バカって、何よ、バカって…」
「バカはバカだろ」
むっとして思わずコトリンは言葉に詰まった。
しかし、そのマントは離さない。
「離せって言っただろ。それ以上邪魔するならどんな目にあっても知らないぜ」
そう言い終わるが早いか、男の指の先に淡い光が集まり始めた。
「わー、待って、待って!!行かないで、助けてよ!」
「はぁ?」
「どこにいるかわかんなくなっちゃったの」
「………やっぱりバカだ…」
かくして、コトリンは早足で歩く男の後ろに必死でついていき、城の入口に何とか戻ることができた。
ようやく無事に受付を済ませることがきたものの、気がつくと男の姿はなかった。
せっかくお礼を言おうと思ったのに。
コトリンは残念そうにつぶやいた。
ちなみに受付は、案内所のすぐ後ろだった…。
4.暗雲
受付を済ませたコトリンは、早速大広間に行き、周りを見渡す。
ふむふむ、結構いるのね。
どうやって決めるのかしら。
それにしても男が多いわね。
ホクエイ城の王様がやってきた。
「よく集まってくれた。
近頃わが城の周りにもモンスターが出るようになり、城を守ってくれる近衛兵を増やしたが、モンスターは日に日に増えるばかりだ。
聞くところによると、遠き国のひとつが闇に飲まれてしまったという。
わが国が闇に飲まれないようにするために、魔法の使い手を増やし、警備を強化することにした。
そこで、今日は宮廷魔法使いを選ぶために集まってもらったと言うわけだ。
どうか、この国の未来のために、皆頑張ってほしい。
わが娘、サホーコも見守っているぞ」
王様の後ろには、清楚な王女様。
途端に男たちの「おおっ」という士気のあがった声。
なるほど、この集まりに男が多いのは、ひとつはサホーコ王女様のためらしい。
やっと納得がいったコトリンは、始まった魔法使いの選別方法に顔色を失った。
…え、皆魔法使えるの…?
得意な魔法を披露せよって…。
ここで魔法教えてくれるんじゃないの?
ええっー!!
仮にも宮廷魔法使いである。
全く魔法の魔の字も使えないものはどんどん落とされているらしい。
や、やばい。
ど、どうしよう。
何もできないコトリンは、自分の順番が近づいてくるのをうろたえて待っていた。
しかし、王女様に会いたいがために来たのだろう。
数多の無様な挑戦者の有様を見て、そこは特技の根性でコトリンは立ち直った。
素質はあるかもしれないじゃない。
そうよ、これから覚えればいいんだわ。
それに、さっきの人もきっと来てるんじゃないかしら。
だって、あの仕草、絶対魔法使いだったわ。
広間を見回すが、先ほどの男の姿はない。
宮廷魔法使いだったかもしれない、と淡い期待を抱いた。
挑戦者も残りあと3人というところで、急に騒がしくなった。
なんと、全身を黒のマントで覆った男が、見事な魔法を披露していた。
これ以上の使い手は見当たるまいと、周りの誰もが感心して見ていた。
いったい誰だろうと詮索しあう。
しかし、コトリンはその魔法使いの正体を悟った。
絶対先ほどの素敵な人だわっ!!
顔は見えないが、きっとそうに違いないと確信していた。
次はいよいよコトリンの番、というところで、広間の中は一瞬にして明かりを失った。
キャーッと言う王女様の声が響く。
「誰かっ!!明かりを持て!」
誰かの叫ぶ声。
コトリンは鳥目のために何が何やらさっぱりわからないまま、騒いで動き回る人々の中で押されて、よろけて何かをつかんだ。
そのとき、コトリンの周りがぽわっと急に明るくなった。
「離せっ」
怖い顔でにらんだあの男の指先から出る明かりだった。
「だって、鳥目なんだもの〜〜〜」
凄い勢いでにらまれ、名残惜しそうにつかんだマントを離した。
そして、響く地の底の声。
『魔法使いが何人束になろうと、私を倒せるものはいない。
また下手な悪あがきをしないためにもサホーコは私がもらっていく』
微かに見えた明かりの向こうには、暗闇の中に消えていく王女様の姿。
そして、壁に広がる大きな黒い影。
まとわりつく闇。
そして、全ての音が消えた瞬間、コトリンの周りを照らしていた明かりすらも消え去った。
ただ、道案内の最中何度も聞いたあの男の舌打ちだけが唯一コトリンの耳に響いてきた。
しかし、それが最後。
前も後ろもわからない闇の中に放り込まれたようで、やがて全ての人が意識を失った。
城は、黒い闇に覆われた
(2007/02/20)
To be continued.