ビリー編その1




テレビからは軽快な音楽が鳴り響いている。
代わりにリビングの床からはこの世のものとは思えない響き。
ここ入江家が一戸建てで、しかも割と広めで助かったというべきだろう。

「こ、琴子ちゃん…、わ、わたし、もう、だめ…」
「お義母さん?!」

その場に崩れ落ちる脱落者1名…。

『ワンモアセーット!!』

「ええっ、まだやるのーーーー!」

『脂肪を燃やしたくないか!!』

『そう、その調子だっ』

『ようし、次は…』

ゼーゼーと荒い息を吐きながら、流れ落ちる汗をタオルで拭く暇もなく、すぐに次の動きにうつっていく。

「琴子ちゃん、頑張って」
「お、お義母さん、あ、あたしも…そろそろ…げ、限界かも」

『諦めるな!ここはどこだ?』

「もうダ、ダメーーーー」

はあはあと膝をついて休んでしまった二人をよそに、DVDは構わず進んでいく。

どうしてこの外人は休まずにしゃべっていられるのだろう。

琴子はうつろな目でテレビを眺めた。

そのリビングをすたすたと通り過ぎながらつぶやいた人が一人。
先ほどから部屋で勉強しようにも、どたばたと響いて集中できない。
何だと下りてみれば、どんくさい兄嫁と体力の衰えた母が二人、リビングで踊っていた。
いや、踊ろうとしていたが、とても見られる代物でもない。
最初こそ意気揚々と張り切っていたが、15分もしないうちに母が脱落。
体力だけはあるおバカな兄嫁もさすがに20分でダウン。
エクササイズはいいが、ここでやるなと言ってみるつもりだった。
通販につられてこんなものを買って、いったい何がしたいんだ?
パッケージにはテレビの中で動き回る外人の写真とともに『7日間で絶対にやせる!!』の文字が。
そんなわけないだろ、と鼻で笑う。

「ゆ、裕樹…、ママにもお茶ちょうだい」
「あ、あたしも」

あきれて言葉も出ず、後でお兄ちゃんに報告しようと思う。
リビングから出る瞬間、いっこうにお茶を持ってこない自分をにらみつける兄嫁に「バーカ」とひとことつぶやいた。
そのひとことは兄譲り。
言葉もなく崩れ落ちる兄嫁の向こうでは、外人が『ビクトリーーーー!!』と叫んでいた。


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