2014年年始スペシャル



ドクターX編その1


これは一匹狼の医師の話である。(本当か?)
面倒なので諸々のナレーションは端折ることにしておく。(著作権にも引っかかるし?)
大学病院の医局制度が崩壊しつつある現在、医師と言えど弱肉強食の世界に突入した。
なり手のいない外科医を支えるのは、いまやフリーランスの外科医だ。
フリーランス、すなわち一匹狼の医師だ。
たとえばこの医師、群れを嫌い、権威を嫌い、束縛を嫌い、専門医のライセンスとたたき上げのスキルだけが彼の武器だ。
外科医、入江直樹。
またの名を、ドクターX。


「あ、船津君、この論文のスライド、よろしく頼むよ」
「…御意」

「お、船津〜、この間の実験結果どうなった」
「まだ結果は出ておりませんが」
「そうか。また引き続きやっておいてくれ」
「ぎょ、御意」

「あ、入江先生、今度先生の論文を…」
「いたしません」

「お、入江〜、今度俺と合コン行こうぜ」
「入江誘っちゃダメだろ、全部こいつに持っていかれるぞ」
「いいんだよ、これでこいつ愛妻琴子ちゃんがいるんだから、結局振り切って帰るんだし」
「ああ、そうか。じゃ、今夜合コンを…」
「…いたしません」

「入江、どうしておまえは免除されるんだ」
「断らない船津が悪い」
「上司の言うことには応えるのが部下の役目ってものでしょう」
「俺じゃなくてもできることはいたしません」

「入江先生、今度斗南日報に載せる新任医師の紹介欄なんですが…」
「何か問題でも?」
「ええと、そのう、この『趣味:手術』。これはいいんですが、『特技:妻をなかせること』というのはいったい…」
「言葉の通りですが」
「いっそ、特技も手術にしましょうよ、ね」
「それなら載せなくていいです」
「うっ、それもどうかと…」
「どちらにしても掲載するなら所長の許可を取ってください」
「きょ、許可?」
「では、失礼いたします」
「あ、ちょっと、入江先生〜〜〜〜」

颯爽と去っていく医師、入江直樹。
そんな医師にも弱点はあるものだ。

「あ、入江く〜ん」
「廊下を走るなと言ってるだろうが」
「だって、入江くん最近さっさと帰るし」
「おまえを待っていたら、無駄な残業をする羽目になるじゃないか」
「そんなにかからないもん」
「それならおまえ、俺の残業代払えるのか」
「…もう、そんな意地悪言わなくたって」
「泣いても無駄だからな」
「泣きません!」
「どうだかな」
「泣いてないわよ、ほら」
「ふうん。それなら、今夜もベッドの上で啼いてもらおうか」
「な、泣かないもん」←二人の意味が違うのはお約束
「楽しみだな」
「と……特別手当もらうからね」
「望むところだ」

そういうなくかよ!と密かに思ったのは声をかけた広報事務方だけではないはずだ。
もう一度声をかけようと思ったが、かけられずに見送ったのは仕方がないと言えよう。

私生活が謎に包まれた医師入江直樹、人は彼をドクターXと呼ぶ。


(2014/01/06)