電子ペット編



その1


ある日突然、電子ペットをもらった。
おやじの会社の開発部の試作品らしい。
とりあえず1匹育てて感想をくれということだったので、仕方がなくスイッチを入れた。
しばらく大学も差し迫った実習も実験もないので、俺としては好都合だった。
ポケットに入れていると、最初の1時間くらいはやたらとピッピと鳴る。
世話がどうとか言っていたことを思い出し、とりあえずマニュアルどおりにボタンを押していく。
これが世話というものらしい。
この俺が育てているというのに、あまり頭がよくなさそうだ。
密かにコトコと名づけた。
どんどん日がたつにつれて、どうでもいい要求をする。
まるで琴子そっくりだ。
しかも食い意地が張っている。
こんな小さな器械だというのに、それぞれ個性が出るらしい。


「あ、入江くんも育ててるの?あたしもお義父さんに一つもらったの。
入江くんのはどんなの?
あたしのはね、メスなの。入江くんのがオスだったら、結婚させちゃおうよ」
「…俺のもメスだ」
「え〜、残念。
育ったら見せてね。通信で友達にもなれるんだって」
「…ふーん」

ピピピ。

二人で思わずそれぞれの電子ペットを見る。

「あ、ウンチしてる。もう、ウンチばっかりするのよね。
えい!ふーーーっ」

勉強そっちのけで世話をしている姿を見ると、おやじも余計なものを持ってきたとつくづく思う。


次の日の食卓では…。

ピピピッ。

何故か全員がはっとして下を向く。
よく見れば、裕樹もおふくろもそっと忍ばせていた。
おやじがセーターの下から自分の電子ペットを取り出していた。
おやじがせっせと世話をしている。
おやじ以外の面々が顔を見合わせて照れ笑いをする。
俺はそれを見て、即座に育てるのをやめようと思った。



(2008/12/31)