電子ペット編



その2


あれから、結局スイッチも切らずに育て続けている。
切ろうと決心したときに限ってピピピと鳴るのだ。
まるでコトコが消すなとわめいているようだった。
世話をせずにぼーっと眺めていたら、すかさず横から琴子にボタンを押された。
これも一つの運命かもしれないと、とりあえずあのまま育てることにしたのだ。

一番まともに育っているのはどう見てもおふくろのものだ。
昼間は暇だから、一番構ってやれるので当然かもしれない。
裕樹の分の昼間の世話まで受け継いで、おふくろは首から二つの電子ペットをぶらさげている。
料理の合間にもまめに世話しているのを見ると、やはり俺向きじゃないとつくづく思う。

ある日どうしても手が離せない状況になり、世話を一時的に琴子に任せることになった。
どうでもいいと思っていたが、帰ってきたものを見て一瞬愕然となった。
帰ってきたコトコは、見事にやさぐれていた。
大事な思春期に差し掛かる頃に琴子に任せたのがいけなかったのか。
任せておけないので、仕方がなく自分で昼間も世話することにした。
大学のやつらは、俺が電子ペットの世話をするのを見つけて騒然となった。
俺がおもちゃをいじっているのが珍しいのか、電子ペットの世話をしているのが珍しいのか。
おやじの会社のおもちゃのモニターだと言ったら、あっさり納得した。
既に初期製造品を持っているやつもいたらしく、早速次の日からなぜか電子ペットブームになった。

いい年をした男たちがそれぞれ電子ペットに向かっている姿というのは、あまり見栄えのいいものじゃない。
それはどうやら琴子のいる看護科でも同じくブームになり、皆が首から電子ペットをぶらさげているという状態に。
それぞれが自分の電子ペットの自慢やアイテムの交換をしている。
この斗南大学だけ見れば、電子ペットの開発は十分成功だといえる。
もう俺がわざわざモニターにならなくてもいいかと思う。
ところが。

「入江くん、ほら、あたしたちのって今度発売される開発品なわけでしょ?だから皆が持っているやつより機能がたくさんあるじゃない。
今日触っていたらね、ほら!何だか隠しアイテムがあったの。それに〜、これもレア品じゃない?
ね、どう?凄い?」

それは俺がまだ見つけていなかったアイテムだった。
実を言えば琴子より先にそのことはおやじから聞いていたし、琴子が見つけるよりも早くほかの隠しアイテムやほかのものもいろいろ見つけている。
何だかおやじっぽく育っている琴子の電子ペットよりは、十分まともに育ってきていたのを満足していた。
この俺がわざわざ手間暇かけて操作しているのだから…と思っていた。

…もうやめようと思った電子ペットだったが、琴子の見つけたアイテムゲットと他の隠しイベントを済ませるまでは、スイッチを切るの先延ばしにすることにした。


(2008/12/31)