ガールズトーク2




「あー、お腹いたぁい」
と品川真里奈は小さく叫んだ。

「どうしたの」
と琴子が今日の日替わり定食を食べながら、心配そうに真里奈をのぞきこんだ。

「んー、痛み止め飲もうかな」
そう言ってごそごそとポーチを探る真里奈に、桔梗幹は恥ずかしげもなく言ってのけた。
「あら、生理痛?」
「まぁね…」

ぶっ!と横でカレーうどんを吹き出す鴨狩啓太に、幹は露骨に嫌な顔をした。

「な、なんでおま、おまえが女のせ、せ…」
「あらぁ、啓太ったら、そんなことで赤くなっちゃって」

もちろん幹は悪びれない。
優しくティッシュを差し出す小倉智子にお礼を言いながら、啓太は幹に向かって指を差した。

「だいたいおまえらはっ」
「はいはいはいはい、慎みがないとか何とか言いたいんでしょ。看護士になろうっていうくせにうるさいわね。大事な生理現象でしょ」
やっと鎮痛剤を見つけた真里奈は、そう言って水を取りにいく。

「だからこそ大事に…」

「でも毎月、大変なのよね」
割って入るように琴子が言った。既に定食は食べきっている。
「女じゃないとわからないっていうか」

ぷちんと鎮痛剤をシートから取り出して真里奈が言う。
「そうそう、漏れないかとか気になっちゃって、おしゃれもしにくいし」

幹が食べ終わったピラフの皿を避けて、琴子に言った。

「そう言えば、入江さんにはどうやって言うの?」
「へ?どうやってって…?」
「ほらぁ、迫られたら、『今日はダメなの』とか?」
「な、何がダメ…って」
「もう、ほんと察しが悪いわねぇ。
もちろんベッドで迫られたときに生理だったらって話よ」

ぶぶっ!

鎮痛剤を飲もうとした真里奈の前に琴子が吹き出した水ともう一方から何やら黄色い汁が飛び散った。

「だ、だって、迫られたことないもん」

飛び散った水を懸命に拭きながら言った琴子の言葉に、琴子以外の全員が固まった。
そしてひそひそと交わされる会話。

「ね、もしかして入江さんって」
顔を真っ赤にして幹が言えば、
「そうね、絶対把握してるわよね」
と真里奈が返す。
「優秀な医学生だから」
と口元を拭きながらあっさり智子が言った。

「ま、夫婦だし?」
ため息をついて幹が言うと
「言わなくてもわかるって…」
頬を上気させて真里奈が言ってから、智子も合わせて三人が声をそろえて言った。

「愛、よね〜」
「ふ、夫婦なんだろっ、当たり前じゃないのかよっ」

「まっ、啓太にはわからないわよねぇ」
と幹が首を振った。

「啓太じゃ、せいぜい本人に確認して終わりよね」
と真里奈が鎮痛剤を飲んでいった。

「啓太くん、毎月の経血量ってせいぜい出ても100グラムくらいなのに…(食事中にふさわしい話ではないので以下略)」
小倉智子がにっこり笑ってミートソースのスパゲティを口に入れた。

啓太は力なく言った。

「…わかった、もういい」

カレーうどんを少し残し、よろよろとカウンターに片付けに行った啓太を見ながら、琴子は頬を膨らませた。

「もう、モトちゃんが変なこと言うから!」
「だって、気になるじゃなぁい」
「どうせモトちゃんは男なんだからわからないでしょ」
「ひっどぉ〜い。どうせあたしは好きな男の人の子どもは生めない身体よぉ!」
「そんなふうに泣いてもダメ」
「何よぉ、琴子なんて、琴子なんて、いつか入江さんの子ども生めるんだからいいじゃないっ」
「だって、あたし入江くんの奥さんだもん」
「きーっ、開き直ったわねっ、悔しいっ」

ガールズトーク…それは女同士の秘めたる話。
…多分。


(2009/07/23)