2013年年末スペシャル



医龍編2その3:チーム船津?


誰もいない廊下を堂々と闊歩していた。
しかし、残念ながらチーム・イリエではない。
自称チーム船津のメンバーだ。
とは言っても、医師の船津と無理矢理メンバーにさせられた真理奈の二人で、現在他のメンバー募集中だ。
「僕はあんな間抜けなチームは作らないぞ」
「間抜けって、あれは別に本当にチームってわけじゃないみたいだし」
「いえ、真理奈さんがいるだけでも違います」
「いっつも船津さんてこういうの二番目なんだから、真似しなくても」
ぴきっと音が鳴った。
「この間の論文も入江先生に負けちゃったんでしょ」
ぴきぴきっと更に鳴った。
「それにぃ、あたしはチーム・イリエがよかったなぁ」
ぶちっと何かが切れた。
「あーん、何がチーム・イリエだ。
そんなのまやかしだ!幻だ!
あんな役に立たない看護師引き連れて、いったいどうやって手術するってんだ」
真理奈はまたか…とため息をつきつつ歩き続けた。
そろそろ来るかなとか思いながら思わずあくびをする。
さすがに何度もこういう場面に遭遇すれば、だんだん人間慣れてくるものだ。
「どうせおれはっ、執刀医なんてまだなれないさっ」
ゴンと廊下に響き渡る音。続けてゴンゴンと音が鳴る。
「どうせチーム船津なんて、夢だ!いいじゃないか、夢くらい見たって!」
「はいはい、夢、夢。ドラマじゃないんだから、こういうのは地道にいくものよ。そういうの、船津さんは得意でしょ」
「ま、真理奈さん!」
「あー、うっとおしいから泣かないでくれる」
「僕はいつか作りますよ、チーム船津」
「はいはい。でも今は入ってくれるような人材いないから解散ね」
「そんな」
「はい、かいさーん」

その頃、チーム・イリエ、もとい直樹は例のごとく屋上に向かっていた。
何せ明日は大事な手術日なのだ。
いや、普通は大事をとって家でゆっくり休むもんじゃないのかという突っ込みはドクター西垣の専売特許だ。
もちろん屋上が見えるエリアには、双眼鏡を抱えた彼の妻が待機している。
「入江くん…」
某熱血野球アニメのようにとあるリネン室の窓から彼女は見守っている。とは言っても肉眼では見難いので双眼鏡越しなのだが。
補佐する西垣はもうどうでもいいとばかりに直樹の変態シュミレーションにはかかわらないことにした。
同じく桔梗は上半身裸の直樹の姿を見て、興奮のあまり既に出血多量(注:鼻血)で自宅に帰っている。
病院を巡回する警備員の間では、手術シフト表が密かにチェックされている。どこから手に入れたのかは定かではない。
とりあえずとある人物が手術をする前日は、屋上は施錠しないと暗黙の了解になっている。
終わる頃にはちゃんと施錠されているので(とある人物が鍵をどこから手に入れているのかはこれまた定かではないが深く追求する者は誰もいない)、これもきっと口伝えで残っていく慣習になるかもしれない。
斗南大学病院七不思議のひとつになろうとは、屋上で熱心に手術シュミレーションを行っている直樹には、知る由もなかった。
しかし、北風が冷たい真冬が近づいてきており、上半身裸はそろそろやめたほうがいいわね、と彼の妻は考えていたが、それをどうやって伝えたらいいのか悩んでいた。
その上半身裸にはきっと呪術的な何かがあるとか(あるわけない)、上半身裸であることに意味があるのか(そんなものはきっとない)、いろいろ理由は考えられたが、もしかしたら寒くないのかもしれないと考えついた。
そこへ、今年初めての雪が舞い散りだした。
そう言えば今日は底冷えするほど寒い。
暖房のないリネン室はとにかく冷える。
毛糸のパンツも重ね履きしている琴子だったが、ふと見上げた屋上の一角は、それはそれは幻想的な光景が広がっていた。
舞い散る雪の夜、体から何かを発しながら月明かりに青白く光るたくましい身体の夫の姿。
「ス、ステキ…!」
先ほどまで心配していたこともどこへやら。
「やっぱり裸よね、うん」
真夏だろうが、真冬だろうが、変態だろうが、そんなことはどうでもよくなった琴子だった。
…いや、変態はどうでもよくないだろうと密かに突っ込みを入れたい西垣だった。

(2013/12/28)