if〜もしも清里で〜



琴子編Vr.1


作者注 vr.1のキスの直後に琴子が目覚めたら…です。キスするまでの経緯は「清里にて〜直樹〜」を参考にしてください。



   夏の清里で、涼しげな木立の中でうたた寝を始めた琴子は…


「俺の気持ちわかってんのか」

入江くんはそう言ってあたしを振り向いて見つめた。
…な、なに?

「い、入江くんの気持ちって…。
あ、あたしのことなんて、が、眼中にないって感じで…」
「バーカ」

優しくあたしの頬に添えられる入江くんの手。

「違うんだよ」

なにが違うの?
そう思ううちに入江くんの顔がどんどん近づいてきて…。
あたしが目をつぶる余裕もないうちに入江くんの唇が…。

「い…」

入江くん!
う…うそ。
うそっ!
あたし、入江くんにキスされてる?!
思わず「2回目!」と叫ぼうとして、
あたしは驚いて身を起こした。
ところが、どうやら眠っていたらしく…。

「う、うわっ」

目を開けたそこには入江くんのアップが…。
長いまつ毛まで確認してしまって、思わずあたしは息を止めた。
な、なんで?!
本当に?

「な、な、な、なん、なんで?!」

入江くん、キスしてた?
まさかっ。
入江くんはゆっくりと身体を起こして言った。

「こんなところで寝て、襲われても知らないぜ」
「おそ、襲われるって誰によっ」

思わず座ったまま後ろへ下がろうとしたら、そのまま木の幹に頭を打った。
よく考えれば、もたれて眠っていたので当たり前なんだけど。
とにかく、そんなこと考える余裕なんかなくて、打った頭を抱えこむ。

「たとえば、俺…とか?」
「い、入江くん?!」

慌てて顔を上げたけど、入江くんはもう立ち上がっていた。
でも、どうしてもこれだけは聞きたくて。

「…あたしに2回目のキスなんて…して、…ないよね」
「…さあ?」

さっきの言葉に続いて冗談なのか本気なのかわからないまま、入江くんは少しだけ微笑んで、荷物を抱えて歩いていってしまった。

今のは、何?
あたし、入江くんにキス、されたの?
こころなしか、なんとなく唇に感触が残ってるような…。
…まさかね。
だって、入江くん、平気な顔してた。
でも、あのアップは、なんだったんだろう。
何か意地悪しようとしてたとか?
あのまま寝ていたら、どうなっていたんだろう。
なんだか少し、残念なような気もする。
もし、本当に2回目だったら…?
あたしは脱力したまま、ぼんやりと入江くんの去っていったほうを見ていた。


if〜もしも清里で〜琴子編Vr.1(2004.10)−Fin−