If〜もしも清里で〜



琴子編Vr.2


作者注 Vr.2のキスの最中に琴子が目覚めたら…です。キスするまでの経緯は「清里にて〜直樹〜」を参考にしてください。




   夏の清里で、涼しげな木立の中でうたた寝を始めた琴子は…

「俺の気持ちわかってんのか」

入江くんはそう言ってあたしを振り向いて見つめた。
…な、なに?

「い、入江くんの気持ちって…。
あ、あたしのことなんて、が、眼中にないって感じで…」
「バーカ」

優しくあたしの頬に添えられる入江くんの手。

「違うんだよ」

なにが違うの?
そう思ううちに入江くんの顔がどんどん近づいてきて…。
あたしが目をつぶる余裕もないうちに入江くんの唇が…。

「い…」

入江くん!
う…うそ。
うそっ!
あたし、入江くんにキスされてる?!
思わず「2回目!」と叫ぼうとして、あたしは驚いて身を起こした。
ところが、どうやら眠っていたらしく…。

目を開けると、あたしは本当に入江くんにキス、されていた…。
あたしが目を見開いて入江くんの顔を見つめていると、入江くんはゆっくりと目を開けた。
開けた直後こそ、あたしと目が合ったせいか少しだけ驚いた顔をしたけど、慌てた様子は見せずにそのまま唇を離した。
あたしは何も言えずに硬直したまま入江くんを見つめていた。
入江くんも何も言わない。
二人とも見つめあったまま沈黙だけが流れる。
…何か、言って。
入江くん、なんで?
でも、2回目!
誰がなんと言おうと、あたし、入江くんにキス、されたんだ…。

ガサッ。

入江くんの後ろから、真っ赤な顔をした裕樹くんが現れた。
入江くんはあたしから目をそらして裕樹くんを見た。
気まずい沈黙。
裕樹くんに見られていたらしい。
あたしはようやく口が動いた。

「なんでここにいるのよっ」
「ぐ、偶然に決まってるだろっ」

入江くんはただ笑って見ている。
なんで?
これも、ざまあみろ、とかいうわけ?

「なんで…?なんでキス、したの?」
「そうだよ、お兄ちゃん。なんでこんなやつに!」

あたしと裕樹くんの視線を受けながらも、入江くんは平然としている。
本当はあたしのこと好きだったとか、もし言われたら…。

(作者注:以下、しばらく琴子の妄想入ります)

入江くん「裕樹、俺は琴子が好きなんだ!」
裕樹くん「ええっ!」
琴子「うれしいっ、入江くん!」
ひしっと抱き合うあたしと入江くん。
裕樹くん「本当?お兄ちゃん!」
入江くん「ああ、これからは琴子をお姉さんと呼ぶように」
琴子「裕樹くん、いいのよ、お姉さんと呼んでちょうだい」
裕樹くん「お姉さん!」
感動が3人を包み込む。
琴子「おばさんに早速報告しなくっちゃ」
入江くん「やっとおふくろの希望通りになったな」
微笑む入江くん。

(琴子の妄想終わり)

「…さあ?」

入江くんは平然とした顔のまま、そう言った。
…え?
「さあ?」って、どういうこと?
あたしのこと好きでキスしたんじゃないの?
裕樹くんはポカンと口を開けて入江くんを見ている。

「ざ、ざまあみろ…とか思ってる?」

あたしは恐る恐るそう聞いた。
途端に入江くんは大笑いしてから、あたしを見つめて意地悪く言った。

「だったら、どうする?」

一瞬、その顔に見とれたために、言い返すのが遅れた。

「ひ、ひどい!!」

入江くんは何事もなかったかのように、運んでいる荷物を持ち直して行ってしまった。
結局、今のキスはなんだったの?
裕樹くんは勝ち誇ったようにあたしに言った。

「やっぱりな。琴子みたいなやつ、お兄ちゃんが好きなはずないよな」
「なんですって〜!」
「…キ、キスしたのだって間違いだよ」
「でも、キスはキスよ」

そう言ったら、裕樹くんは真っ赤になって口ごもり、入江くんの後を追うように走っていった。
そうよ、キスはキスよ。
…あたし、入江くんとキスしたんだ…。
でも、あたしが思うほど、入江くんにとってキスなんてあまり意味のないもののような気がする。
1回目のキスだって、あたしを好きでしたことじゃないこともわかってる。
入江くんて、何を考えているんだろう。
あたしは、こんなにも入江くんのこと大好きで。
キスなんてされたら、それこそ心臓が止まるほど恥ずかしくて、うれしくて…そして大事なことなのに。
でも、どうしよう。
また顔を合わせづらくなっちゃったよ。
どうしよう。
一人で黙ってるの、つらいな。
おばさんに教えてあげたいけど、そんなことをしたら入江くん、ますます怒るだろうな。
自分の唇の感触を思い、あたしは一人動けないままだった。



If〜もしも清里で〜琴子編Vr.2(2004.10)−Fin−