ドクターNと秘密の部屋




やあ、君も斗南病院にかなり慣れたみたいだね。
でもまだまだ研修医としても半人前。どんどん仕事してどんどん成長したまえ。
何だって?
あの生意気な後輩が?
僕を差し置いて?
そうか、いや、それはきっとあいつなりの配慮なんだと思うよ、うん(実際はただの嫌がらせに過ぎないがね)。
ああ、そうかもしれないね(そうだよ、ひどい奴なんだよ!)。
いくら僕が忙しさでちょっとばかりオペ室に行くのが遅れたからって…。
あ、いや、何、独り言だよ。
だいたいいつも僕をないがしろにするんだ、あいつは。
ああ、まあ、君はそんなことないだろうがね。
おっと、主任が僕を呼んでいるようだ。

今行きますよ。そんなに僕が待てないなんて、主任も積極的だなぁ。
ああ、はいはい、申し訳ありませんね、ちょっと口が滑りました。
そんなにきれいな顔で怒らなくても…。

で、…なに?
消えたって?
誰が。
あの生意気な後輩が?
どこに。
どこかわからない…。
そんなバカな。
オペ室の帰りに…。
ふむ、それはちょっと興味深い。
興味深いけれど、あそこは教授陣の研究室もたくさんあって、建て増しもされていて、非常に複雑なルートがあるんだよ。
まだこの病院に来て数か月の君には難しいかもしれないね。
そうそう、オペ室を出た教授が真っ先に研究室に戻れるようにだって…。
は?
いつからそんな噂が…。
い、いや、僕もちらっと聞いたことはあったんだけどね、ははは。
しかし、その噂は非常に微妙だから、それ以上広げない方がいいと思うよ。
まあ、新たな噂があったら教えてくれたまえ。
お礼は耳鼻科ナースとの合コンでどうかな。
え?それはいや?
それじゃあ、思い切ってCAにしよう。君の同期も二、三人誘っていけばいいかな。
大奮発ですねって、そ、そうでもないよ。
その代わり、僕も情報通を自称している以上、そういう噂にも興味があってね。
うん、だから僕にもそういう情報を届けてくれるといいなと。
そうそう、言葉は悪いけれど、君たちのような新人くんたちの情報はなかなか上には上がってこなくてね。
そうなんだよ、わかってくれるかい。
ああ、僕も有益な情報があったら耳に入れてあげよう。
おっと、主任が怖い顔して睨んでるね。
それでは、また。

なんてことだ。
僕は主任に睨まれながらPCの前で定期薬のオーダーをしている間に、脳の別の場所では違うことに頭がいっぱいだった。
「えっと、遠藤さんの薬はっと…変わらないやつで大丈夫だな」
とか言いつつ、もう僕はワクワクだ。
あの生意気な後輩が、オペ室からオペ室ナースを伴って、とある場所へ消えたという噂があったのだ!
なんてことだ。
そのまま鵜呑みすれば浮気もいいとこじゃないか。
しかも相手は今話題の新しく配属されたベリーキュートな新人ちゃんだ。
これは確かに大スクープだ。
しかも噂になりかけってことは、もしかしたらすでに琴子ちゃんの耳に…。
まあ、そうなったらなったで慰めてあげればいいわけだし。
しかもその噂が本当かどうか調査とかなんとか言って夜のランデブーに誘うのもありだな、うん。
あ、これはよく聞かれるんだが、僕は琴子ちゃんに横恋慕しているとかではなく、今までに誘ったナースの中で唯一全く相手にされないものだから、ちょっとばかり意地になってきているのもあってだね、あの生意気な後輩の嘆く姿が見られればどんなに溜飲が下がるかという…。
いいじゃないか。何だかんだと言ったって、琴子ちゃんはかわいいぞ。
頭はあれだが、あれだからこそ何となく自分の思い通りにできそうなところがそそられるんだよ。
どうせ生意気なあいつだってそうに違いない。
自分好みにしたいんだろう。
だいたい高校の頃からだって言うじゃないか。
そんな独裁者も真っ青な支配欲、お目にかかれるもんじゃない。
ああ、いつか鼻を明かしてやりたい。
というわけで、新人オペ室ナースちゃんに後で粉をかけに行くことにしよう。

(2014/09/27)


To be continued.